今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#140

(写真:森林浴)

ARTIFICIAL BODY

司会の紹介に続いて姿を現したのは歌陽子の弟、東大寺宙。
小柄で、線の細い容姿に観客席からは、

「まあ、可愛い坊ちゃんだこと。」

「どんなロボットを紹介してくれるの?」

と、主に婦人を中心に微笑ましげなつぶやきが漏れた。

宙は、そんな反応には全く無頓着で、いつもの済ました顔をして喋り始めた。

「みなさん、こんにちは。僕は東大寺宙です。今日は、歳をとった皆さんでも普通の生活を送れる夢のマシンを紹介します。
その名も、『ARTIFICIAL BODY』です。わかりやすく言うと、機械の身体です。
今回のテーマは自立駆動型介護ロボットですが、このマシンはそれとは少しだけ違います。」

「たく、中学生の自由研究であるまいに。」

ブースの裏で川内が呟く。
彼にとっては、中学生と得体の知れない外国人コンビが作ったものが、自分たちのロボットを凌ぐとはとても思えなかったのだ。

宙は続ける。

「この『ARTIFICIAL BODY』はすでに商品化されているロボットの応用です。今、こちらに現行の機体を用意して貰いました。まずは、チビの僕が装着してみます。それで、どんなことができるか見てください。」

やがて、オリヴァーの部下と思しき外国人が姿を現し、ブースに展示してあるロボットより少し大ぶりのマシンを運んで来た。
マシンは上半身のみの人型で、大きな吊り台からぶら下がっている。前面はパックリと口を開いて、中のメカや電源コードがのぞいていた。背面からは電源供給用のコードが延びている。
宙は少し不穏な雰囲気を漂わせるマシンに近づくと、下側から潜り込むようにして、口を開いている前面に身を収めた。

「では、スイッチを入れます。」

宙がそう言うや、開いている前面のパーツが生き物のように動いて、小柄な宙の肩に、胸に、腕のラインに合わせてフィットした。
それは、まるで機械に飲み込まれるような光景に、老人たちの何人かは驚いて短く声を上げた。

小柄の宙に合わせて、マシンは吊りさがっている位置を自動で調節した。その絵はまるで、大きな機械のシャツに頭を通して、衣紋掛けからぶら下げられた子供のようだった。また、イタズラの罰に大きな重しをつけられているようにも見えて、滑稽ですらあった。
その姿にクスクスと失笑が起きる。

しかし、宙が一歩前に進むと失笑が驚嘆の声に変わった。
宙が歩く方向に、吊り台が自動で追従する。
それは、マシンを吊っているワイヤーにかかる張力から進行方向、速度を自動解析して、吊り台のタイヤを動かしているからである。
そのため、吊り台を動かす宙には全くストレスはかかっていない。
その滑らかな動きは見るものの目を引いた。

そして、ステージ脇の台車に乗せられた重量物に近づくと、宙はそれに向かってマシンのアームを伸ばした。
マシンのアームには、宙自身の生身の腕が差し込まれている。そして、連動することにより、まるで一体となって動かすことができた。それは、指先の動き、筋肉の動きをキャプチャして、瞬時に解析してマシンに動きを伝えることで実現していた。

まるで、人間の腕と見まごうような自然な動きで、マシンのハンドは重量物に絡みつき、ガッシリ掴むと、アクチュエーターの力で垂直方向に持ち上げた。
いわゆる上半身だけのパワースーツだが、データ解析とAIにより他の追随を許さないまでの可動性、反応速度を実現していた。

やがて、小柄な宙が100キロ以上ありそうな重量物を高々と持ち上げると、会場中から驚嘆の声が上がった。

会場の反応に満足して、宙は心なしかニヤッと笑った。

そして、

「これからが本番です。もっとすごいもの見せますよ。」

(#140に続く)