成長とは、考え方×情熱×能力#138
様々な評価
「おい、おい。」
ヘッドセットのイアホンの声にハッと我に返る佐山清美。
「いつまで、やっているんだ。早くひっこめ。」
川内の声に、
「はい、済みません。」と清美は答え、最後に大きなお辞儀をした。
それに対して、会場からは一段と大きな拍手が起こり、それに見送られて清美はブースの裏手に姿を消した。
「どうやら、彼女、代役だったようですな。」
「お恥ずかしながら、その通りです。事前に聞かされていなかったので、お見苦しいところをお見せしました。」
観客席中央で、東大寺グループ代表、東大寺克徳と、三葉ロボテク社長牧野が言葉を交わした。
「いや、なかなか見事な人選でした。誰でしか、そう川内君とやらをあまり叱らないでやって下さい。」
「そうですな。川内はうちの開発部長で、この男、口は立つんですが少々コワモテでしてな、老人受けは悪かったかも知れませんな。」
「あの代役の娘さんは何と言う名前ですか?」
「確か、総務部の佐山と聞きましたな。」
「なるほど、技術者より総務の方が人当たりが良さそうですね。それに、まだ若い娘さんなので、老人の皆さんも肩の力を抜いて聞けたのでしょう。」
「全く、怪我の功名と言う奴ですよ。しかし、若い娘さんさんなら、代表のお嬢さんもそうでしょう。」
「いや、うちの歌陽子はまだまだですよ。あのようなしっかりしたプレゼンの後ではかなり苦労するでしょうな。」
「やはり、親御さんとしては心配ですか?」
「いえ、歌陽子はともかく、私としては、もっとも優れた仕組みに投資するだけです。」
一方、ブースの裏に帰った佐山清美を、開発部長の川内が出迎えた。
「ようし、よくやった。途中、何度かハラハラしたが、まあ80点以上だ。」
「あ、有難うございます。これで、私、開発に異動して貰えます?」
「まあ、そんなに急くな。俺は考えるって言ったんだ。誰も決めたとは言っていない。」
「え〜っ、嘘つき・・・。」
清美は小さな声で文句を言った。
「ん?誰も嘘なんか言ってないだろ!」
しかし、しっかり、川内に聞かれていた。
「あ、いえ。あ、そうだ、案内に戻りまあす。」
火がつきそうになった川内から逃げ出すように、清美はブースを飛び出した。
その清美に、
「清美さん。」
声をかけて来たのは歌陽子であった。
「あ、かよちゃん。」
(#139に続く)