成長とは、考え方×情熱×能力#127
カウントダウン
「嬢ちゃん、そろそろ始まるぞ〜!」
会場前方から、前田町が呼びかける。
「はあい!いま、行きます!」
「かよちゃん!」
「はい。」
「頑張って!」
佐山清美が、歌陽子に向けて親指を立てて拳を突き出した。
「はい!行って来ます。」
元気よく答えて、自分のブースにカタカタと駆けていく歌陽子を見送りながら、清美が言った。
「あの娘、天然の振りして、実はなかなかやるのよね。ヤッパリ、東大寺の血は争えないってこと?」
「なあ・・・。」
「え?あ、川内部長、まだおられたんですか?」
そこには、打ちひしがれている川内の姿。
「悪いか。それより、佐山。お前、あいつが東大寺の娘だって知ってたんだろ?なんで、教えてくれなかたんだ?」
「そ、それは、部長も当然ご存知かと・・・。」
「知るもんか、そんなこと。だいたい、あの二人ぜんぜん似てないだろ!」
「そう言えばそうですね。かよちゃんは、どちらかと言えばお母さん似かな。うふふ。」
「何がおかしい。」
「いえ、別に。それより、部長、そろそろコンテストの始まる時間ですよ。部長も確かプレゼンターのお一人でしたよね。行かれなくていいんですか。」
「馬鹿いえ。あんな失態をさらしておいて、どのツラ下げて代表の前に出られるんだ。ほとぼりが冷めるまでは、俺は休職する。」
「部長、大袈裟ですって。そこは、ちゃんと、かよちゃんに頼んでとりなして貰いますから。」
すっかり、立場が逆転である。
さっきまで、川内のこと怖がってまともに口も利けなかったのに、すっかり馴れ馴れしい口調になっている。
「佐山・・・、いい加減にしろ。アイツに頭を下げるなんてゴメンだ。だったら、すぐに辞表を出す。」
(そりゃそうか。今まで、散々ボケだの、カスだの言って来たもんね。かよちゃんに貸し作るなんて、プライドの固まりの部長には無理だろうなあ。)
「なあ、佐山、お前、入社時は技術志望だったよな?」
唐突に口調を変えて、川内が聞いた。
「え?はい。そうですけど、数学に弱くって・・・。」
「ならば、お前にチャンスをやる。ちょっと顔を貸せ。」
「え、無理ですよ。勝手に持ち場を離れたら怒られちゃいますし。」
「構わん、俺が許可する。」
「ちょ、ちょっと、引っ張らないでください!」
「いいから、早くしろ!」
川内は、戸惑う佐山清美の腕を引いて、自分たちのブースに向かってどんどん歩き出した。
各ブースの裏手には会場から死角になっている場所があり、そこをバックヤードとして物置にしたり、椅子を置いて休憩できる場所にしている。
他の2つのブースはしっかり木組みがしてあるので、バックヤードも外から見えないように仕切りになっていた。
一方、歌陽子たちのブースは、一応簡易な仕切りはあったが、ほぼ丸見え状態だった。
そこに、歌陽子と前田町ら三人が集まって間も無く始まる出番を待っていた。
「嬢ちゃん、でえじょうぶか?緊張してねえか?」
「はい・・・、なんとかいけそうです。」
「しっかり頼むぜ。ここでお前がこけたら、俺らの苦労、全部水の泡だからな。」
「大丈夫ですよ。歌陽子さんは、ここ一番の腹の座り方はたいしたもんです。
それに、ここでモニターに映して、何かあったらヘッドセットでサポートしますから。」
「皆さん、よろしくお願いします。」
「じゃあ、嬢ちゃん頼んだぜ。」
「頑張れよ。」
「気を楽にしてれば大丈夫ですよ。」
そして、前田町が出陣の合図を出した。
「さ、行ってきな。」
「はい!」
(#128に続く)