今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#4

(写真:黄金さす その1)

正しい答え

前田町が続けた。

「さて、嬢ちゃん、肝心なのはあんたの頭の中身だ。一口に自立駆動型介護ロボットと言うが、何をさせるつもりなんでえ。」

「それは、私なりに考えました。少し見ていただけますか?」

「ああ、見せて貰うぜ。」

「少し準備に時間を下さい。」

そう言って、歌陽子は卓上のノートパソコンに向かった。やがて、資料の印刷を指示するとプリンタに向かって席を立った。
持参したのは、カラーA3の提案資料。
「自立駆動型介護ロボット概案」と書かかれている。

「私、機械や配線のことはサッパリなんで、こんなことができたらいいな、をまとめました。」

そう言って歌陽子は、資料を野田平、前田町、日登美の3人にも見えるように広げた。

「はっ!こりゃまた随分あっさりした提案書だな。」

「まあまあ、社会人半年ならこんなものでしょう。」

野田平や日登美にからかわれた歌陽子は恥ずかしくて、赤くなってうつむいて言った。

「す、すいません・・・。」

そのA3用紙にはロボットのイラストと、ポイントの大きな文字でこう書かれていた。

『自立駆動型介護ロボットの機能

一、歩行を助ける
高齢者がつかまり歩きして、歩行を楽にする。ロボットと行動さえすれば、遠出しても迷子にならず無事帰宅できる。

二、食事を助ける
手元が不確かな高齢者の代わり食事を口に運び、誤嚥の兆候があればすぐ通知する。

三、入浴を助ける
介護士に代わり入浴を助け、湯温の調整も行う。

四、転倒を防ぐ
足が弱い高齢者に寄り添い、転倒のリスクがある時は転倒を防止するよう行動をする。

五、体調の急変を通報をする
高齢者のバイタルを定期的にチェックし、AIで体調の変化の兆候を検出して通報する。』

「いや、いいと思うぜ。字が大きいのも俺らには助かるぜ。なあ、そうだよな。」

「あ、ああ。」

前田町に励まされて、少し気を取り直した歌陽子は介護ロボットの説明を3人にした。
歌陽子は今まで見聞きし、また自分なりに調べた介護の現場の大変さを少しでも楽にしたいと思ったのだ。

「嬢ちゃん、ちょっと欲張りすぎじゃねえか。一、の歩行ロボットだけでも相当ハードルは高いぜ。」

「ですねえ、人間の行くところにいつもついて来るロボットなんて、できたら盲導犬はいらなくなりますね。」

その時、不思議と口を閉じていた野田平がポツリと言った。

「あのな、俺には今年83になるお袋がいるのよ。すまねえ事にな、家族で面倒を見きれなくて離れて施設で暮らしているのさ。そのお袋が喜ぶのはどんなロボットだろうかって考えてちまってな。」

前田町も日登美も身に覚えのない話ではないらしく、シンミリとした空気が流れた。

「まあ、その、なんだ。親不孝じゃ、俺ら、誰にも引けは取らねえからな。」

「戦後に私たちを必死に守って育てた世代ですからね。少子高齢化とか、国のお荷物とか、あまりよくあつかってはきませんでした。本当はもっと恵まれてもいいんじゃないかって思いますよ。」

「だよな、少しは年寄りを喜ばせられる仕事も必要だよな。」

「じゃあ!」

その重くなった雰囲気の中、ひとり明るい声をあげたのは歌陽子だった。

「じゃあ、答えを探しに行きましょうよ。」

「答え?」

「そう、何がお年寄りの皆さんにとって嬉しいことなのか、それをロボットが実現するのが一番正しい答えなんです。
だから、野田平さんのお母さんに会いに行きましょうよ。」

唐突な申し出に野田平が慌てた。

「ちょっと待てよ。お袋が入所しているのは広島だぞ。ちょっとやそっとでいけるもんか。」

「大丈夫です。新幹線なら3時間半です。」

愉快そうに前田町が尻馬に乗る。

「じゃあ、野田平と嬢ちゃんの二人で行ってきな。」

「はあ?なんでこんなグズカヨと二人連れで旅しなけりゃならねえんだ。」

「いや、けっこう仲良くやってるじゃねえか。」

「じゃあ、旅費は出るんだろうな?」

立派な公務ですもん、当然です、とばかりに歌陽子が胸を張る。

「はい、任せてください。」

「それより、またヘリでひとっ飛びって訳にはいかねえのか?」

「そ、それはもう二度と嫌です。」

(#5に続く)