成長とは、考え方×情熱×能力#122
天邪鬼
「見てよ、オリヴァー、これ。あのジジイ、本気で殴りやがって。」
宙は、前田町に殴られたところを見せて、オリヴァー相手に毒づいていた。
「ああ、それはディザスターだったね。」
顔をコンピューターに向けたまま、オリヴァーが答える。
「あんな奴ら、味方につけやがって。」
「だけど、ソラ、君もランボウだぞ。女の子にボウリョクはよくない。」
「向こうから先に手を出して来たんだ。本気で殴りかかってきたから、お腹を脚で思い切り蹴って逃げたんだ。」
「え?」
オリヴァーがコンピューターから、顔を上げて振り向いた。
「カヨコはノープロブレムなのか?」
「さあ、夜は苦しそうにウンウン唸ってたけど、朝には姿がなかったから、息だけはしてるだろ。」
「ソラ、君はカヨコが心配じゃないのか?」
「さあ、ライバルが一人減って良かったんじゃない?」
「カヨコは・・・、今、どこで、何してる!?」
オリヴァーが、彼らしくない感情的な言い方をした。それは、宙を少しばかり驚かせ、また怯ませもした。
「し、しらないよ。知るもんか!まだ、家でウンウン言ってるだろ。」
「ソラ、カヨコにコールしてくれないか?」
「え、嫌だよ。昨日、喧嘩したばかりじゃないか。」
「ソラ、女の子にとって、お腹はとてもタイセツなんだ。ワカルダロ?」
「それくらい、知ってるよ。」
「じゃあ、コールするんだ。」
「オリヴァー、自分でしたらいいじゃん。」
「ソラ!」
有無を言わさないオリヴァーの口調に、
「チェッ、分かったよ」と渋々ソラは携帯電話を取り出して、歌陽子をコールした。
数回のコールの後、
「はい、歌陽子です」と姉が応答した。
そして、電話の相手が宙だと気づくと、
「あ、こら!宙、あんたねえ!」
ブツッ。
一方的に会話を切断した宙は、
「チェッ、生きてたぜ」と忌々しげに吐き出した。
「そうか、ならばいい。」
それを聞いてオリヴァーは、あっさりとまたコンピューターに向かった。
・・・
「ん?誰だ?」
「あ、弟の宙です。」
「あのクソガキか。」
(人の弟をクソガキって・・・。)
人の身内だろうが、野田平には呵責がない。遠慮と言う感覚が欠落している。
そこを前田町がフォローする。
「さぞ、嬢ちゃんのことが心配で電話してきたんだろうぜ。」
「そうでしょうか。」
「あれはなあ、天邪鬼の生まれ変わりのような坊主よ。好きなら嫌い、嫌いなら好き。欲しいものは要らねえ、要らねえもんは欲しい。なんもかんも逆さまなのよ。」
「天邪鬼なのは間違いないです。」
「だから、一番嫌ってる相手が、ホントのところ一番でえじなんだよ。」
「一番大事・・・。でも、確かに、前はああではありませんでした。宙は、大人に反抗ばかりしていましたけど、わたしには不思議と素直だったんです。それが、去年私が就職してから急にひどいことを言うようになって・・・。」
「ああ、それな、よくあるぜ。
子供が自立しようとすると、急に束縛がキツくなる親とかな。結局、自分一人じゃ生きられなくて、誰かに寄っかかってなけりゃ生きられねえ。あの坊主にとって、嬢ちゃんがそれなのよ。就職して自立されて、自分だけ置き去られたような気持ちになったんじゃねえか?」
「はあ、だとしたら・・・、疲れます・・・。」
「まあ、それだけ、嬢ちゃんが人から好かれやすいってことだけどな。」
「はああ、そうなんですか?」
「ところでよお、カヨ。お前さっきから何持ってるんだ?」
「あ、これ。すいません、出すのが遅くなって。安希子さんが作ってくれました。
この辺り、食事するところないでしょ。」
「はあ、と言うことは昼メシか?」
「はい。」
パッと輝いた野田平の顔に、歌陽子がいい笑顔を返した。
(#123に続く)