今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#93

(写真:古都の風雲)

主役の挨拶

「おい、君。お弟子さん。」

祐一が森一郎の脇を小突いた。

「いたっ、何ですか?フィアンセさん。」

森一郎が祐一に言い返す。

「さっかから、何見とれてるの。」

赤いドレスで颯爽と登場した歌陽子を思わず注視していた森一郎。

「べ、別に僕は・・・。それより、フィアンセさんの方こそ、どうなんですか?」

「いや、僕ら、そう言うのとは違うし。」

歌陽子との仲を言い繕おうとする祐一。
その腕を掴んだ手に、我知らず力が入る由香里。
微妙に気持ちが揺れる男女の様子を、少し離れた位置から眺める余裕があるのは部外者の希美。

普段は、地味で控えめで、未だ子供っぽい印象を脱しきれない歌陽子。だから、男心をくすぐる部分は、あっても少ない。
それが一度火がつくと、情熱的に、なりふり構わず動き始める。その時、気持ちの高ぶりが顔にでて、とても表情が良くなる。
笑みが広がれば顔全体が光り輝やき、怒りが表に出れば上気した顔が愛らしかった。

(歌陽子さまは、とても得をしてる。普段目立たないから、男の人はつい油断してしまいますもの。でも、それが急に可愛らしくなると男の人は無防備のまま心が掴まれるんですわ。)

なぜ、歌陽子のような地味なメガネ女子が、こんなに男心をくすぐるのか、希美の分析によればこうらしい。
つまり、歌陽子は自覚なく魅力を振りまく。だから、なぜ自分がそこまで男性に言い寄られるのか、実は本人には分かっていない。
そして、男性慣れしていない彼女は、結構アッサリと袖にする。手が届きそうで、実際は手が届かない果実のような歌陽子自身が、彼女の男性関係を複雑にしているのは否めない。

それにしても、今日の歌陽子は別人だった。
もちろん、希美も由香里も写真では見ていた。
真っ赤なフェラーリをバックに歩き始めた真紅のドレスの歌陽子。
その時と同じ真っ赤なドレス。小柄で華奢な身体の割に伸びやかな四肢を露わにして、ノースリーブのドレスと膝上10センチのスカートで身体を包んでいる。
それを夜風ではなく、招待客全員の前で晒している。

「お、歌陽子、何とまあ。」

「ちょっと、おじいさん、歌陽子、悪い遊びを覚えたんじゃありません?」

先代老人と、妻の喜代が歌陽子の姿に驚きの声を上げた。

「まあ、歌陽子に限って心配ないじゃろう。割とこの辺じゃ、あんな格好をした娘っ子はよく見かけるしの。」

「ですけど、他の子ならまだしも、あの歌陽子ですからねえ。」

「ばあさん、いつまでも子供扱いしてはならんよ。歌陽子も、もう21じゃ。いい機会じゃよ、一皮むけた歌陽子を見てもらうのもええじゃろ。」

だが、少しの離れたところでは、東大寺克徳の妻、つまり歌陽子の母親の志鶴が目を釣り上げていた。

「あなた、ちょっと歌陽子をご覧ください。いつの間にか、あんな服を買い込んで、人前に姿を晒したりしてみっともないですわ。」

「ああ、そうだな。」

「すぐにやめさせてください。」

「まったくしょうがない娘だ。だが、歌陽子なりにきちんとコーディネートしているし、みっともなくはないと思うが。」

「あなた・・・。」

「なんだ?」

「あまり、驚いておられないんですね。どうしてですか?」

実は、克徳が歌陽子のこの姿にお目にかかるのは二度目であった。

そして、大人たちの懸念を他所に、歌陽子は主役としての挨拶を始めた。

「みなさん、この場に立つのは一年ぶりです。その間、皆さんはどんな一年を過ごされたでしょうか?
私はこの一年に、今まで生きてきたよりもっと多くのことを体験し、たくさんのことを学びました。」

(#94に続く)