成長とは、考え方×情熱×能力#81
先代裁く
「あ、じいちゃん。」
そこに、ふらりと姿を見せた先代老人に宙が声を上げた。
「こりゃ、お主ら何しとる。」
歌陽子の祖父の登場に、三人の男性の顔に緊張感が走った。
「あ、師匠。それは、この男が・・・。」
「お前さんが大きな声を上げとったから、だいたいは分かっとる。それより・・・。」
「イ、イテテテ!」
森一郎は、歌陽子の肩を抱いてオリヴァーから奪還した。しかし、そのまま抱きしめていた彼の手を先代がつねり上げた。
「いつまで、わしの孫の肩を抱いとるんじゃ。」
慌てて歌陽子から手を離しながら、
「し、師匠、ひどいです。まるで、僕が歌陽子さんに悪さしていたみたいじゃないですか。」
東大寺老人は、いつもの飄々とした感じを潜めて、厳しい顔をして言った。
「お主ら、相手はか弱いおなごじゃぞ。大の男が三人も集まって、何をめいめい勝手に自分の都合を押し付けとるんじゃ。」
「そ、そんな、東大寺のおじい様、僕は彼女を助けようと思って。」
「そうです、師匠。何も恥ずるようなことはしていません。」
先代は黙ったまま、いたたまれない様子の歌陽子を招き寄せると椅子を勧めた。
「歌陽子。」
「は、はい。おじい様。」
「しんどいじゃろうが、もう少し付き合ってくれんか。わしが今からこの馬鹿者どもに良く言って聞かせるからの。」
「分かりました。」
そうして、東大寺老人は三人の男を見回した。
「まず、高山の小せがれ。あんたじゃ。」
「僕ですか?」
「あんた、なぜ、わざわざこの場で自分のことをフィアンセなどと言ったりするんじゃ。その話は、もう過去の話じゃろう。それとも、まだ、歌陽子に思いを残しとるんか?」
「そ、それは・・・。」
「無理に答えんでもええ。あんたも、歌陽子も、家のために自然な恋愛感情が縛られるのは間違いじゃ。そう思って、あんたの親父さんも、わしらも一旦は決めたいいなづけを解消したんじゃ。
とは言え、あんたはいざ知らず、歌陽子には多少あんたに気持ちが残っておる気がする。」
「お、おじい様、それは・・・。私の子供時代の一方的な気持ちです。それに、私は・・・祐一さんに釣り合いません。」
そう言って歌陽子は顔を赤らめて下を向いた。
「歌陽子、お前さん、忘れとるんじゃないか?」
「え、何を?」
「お前は、好むと好まざると、この東大寺家の名前を背負っとるんじゃ。だから、自分をそんなに安売りされては困るんじゃよ。
祐一さん、あんた、この歌陽子がそう言う相手だと理解しておるかの?」
「・・・、申し訳ありません。」
「だから、一度いいなづけになったからと言って、それを安易に振り回されては歌陽子が迷惑する。もしじゃ、あんたが本気で歌陽子のことを嫁に迎えたいと思うんなら、それに相応しい男かどうかは、あんた自身が証明して見せることじゃ。良いかな?」
「はい、肝に銘じます。」
「歌陽子、お前もじゃ。いたずらに感情に引きずられたり、自分を卑下したりしてはならん。お前は、東大寺家の大切な令嬢なんじゃ。そのことを忘れんようにな。」
「おじい様、分かりました。」
「うむ・・・、さて、森一郎、今度はお前さんじゃ。」
「は、はい、師匠。」
分を弁えよ、と叱られるのか。
そう想像して森一郎は緊張した。
(#82に続く)