今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

月曜日が待ち遠しくなる会社(前編)

(写真:ゴールド イン ゴールド その2)

また、性懲りもなくフィクションを投稿します。
題は「月曜日が待ち遠しくなる会社」。
現実は、そんな会社に勤めている幸せな人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
では、「月曜日が待ち遠しくなる会社」はどんな場所か、早速考察してみたいと思います。

35歳、幸せの局

さちこさんは、宇津井倖子と言う。
さちこさんは、みんなから「幸せのお局」と呼ばれていた。
それは、さちこさんが、ある有名な童話を思い出させるからだった。
・・・
広場に立っている幸福の王子。
身体はたくさんの宝石がちりばめられて、見る人見る人が美しさにため息をついた。
そう、幸福の王子はたくさんの宝石を身にまとった銅像だった。
でも、幸福の王子はいつも悲しんでいた。
自分はこんなに幸せなのに、耳に聞こえるのは不幸な人たちの悲しげな声。
なんとか、そんな可哀想な人たちに自分の幸せを分けてあげたい。
でも、王子は銅像。歩くことも、走ることもできなかった。
その幸福の王子の気持ちに心を打たれた一羽のツバメが、王子の身体の宝石を預かっては、貧しい人たちに届ける仕事を買ってでた。
でも、ツバメは王子の仕事に一生懸命になり過ぎて、南に渡る時期を逃してしまった。
そして、雪の降る寒い朝、最後の宝石を運び終わったツバメはとうとう力尽きて冷たくなった。
・・・
さちこさんは、王子でない。
むしろ、ツバメに似ていた。
さちこさんには、年の離れた3人の妹がいた。
さちこさんが20で就職した年、突然両親が離婚し、姉妹を引き取った母親はまもなく行方知れずになった。
まだ、中学生と小学生の妹たちを抱え、さちこさんはそれから、15年間も頑張った。
そして、さちこさんは今年35歳。
最後の妹をお嫁に出して、家に一人残された。
それで、婚期を逃したさちこさんは、まるで南に帰れなかったツバメのようだった。
だから、みんな最初は、彼女のことを「幸福の王子」のツバメのようだと、幸福のツバメと呼んだ。
でも、会社に長くいる女子社員だから、いつの間にか「幸福のお局」とみんなが呼ぶようになった。

幸薄い場所

宇津井倖子。
でも、うすいさち子、とも人は呼ぶ。
幸福のお局だけど、本当は幸薄い人だとみんなは思っていた。
自分の幸せを犠牲にして、一番幸せなはずの青春時代を妹たちに捧げた。
その妹たちも、みな自分の家庭を持っているので行き来も途絶えがち。
同じ会社に長くいるから、「お局」とみんなからからかわれ、毎日単調な会社の事務を黙々とこなしている。
さちこさんは、男運も悪い。
いや、浮いた話じゃない。
周りにろくな男がいないのだ。
まず、営業の正木。
外回りのくせに、いつも事務所に居座っている50男。何かと言うと、今日は暑いだの、寒いだの、日和が良くないだの、と出かけない口実を作る。
そしていつも、さちこさんに話しかけては仕事の邪魔をする。別に気があるわけじゃない。彼女に投げる言葉の半分で、さちこさんを馬鹿にしていた。
そして、後の半分が自分の自慢話。
どうして、こんな男が首にならないのか。
それは、思い出したように大物案件を受注するからだ。
正木曰く、「自分は天才」、らしい。
ならば、もっと本気をだして、部長にでも専務にでも何でも成れば良いのに、勤勉とか真面目は嫌いなのだ。
次は、陰気な経理マン、庄田。
いつもブツブツ言いながら、電卓を叩いている。時折、さちこさんに何かを頼むのだけれど、その声が小さい。小さくて聞き取れない。それで聞き直すと、一応繰り返す。
でもやっぱり小さい。
そして、3回聞き直すと、突然割れんばかりの声をあげて怒りだす。
「何遍、わしに同じことをいわせるんじゃ!嫌がらせか!」と。
正直、一緒にいると胃が痛い。
若手の営業マン、牧田。
悪い男ではないが、とにかく依存心が強い。
極度の心配性で、ことあるたびに周りに聞かずにおれない。でも、やっぱり正木や庄田は怖いから、さちこさんのところに来る。
そして、えへらえへらと笑いながら、いろんな仕事を押し付けて行く。
本当にふざけんじゃないわよ、と言いたい。
そして、最後の極め付けが社長の五島だった。

(中編に続く)