今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#120

(写真:オレンジ・サンセット)

歌陽子の見栄

「安希子さん、お願〜い。力を貸して!」

歌陽子は自室の前の手すりから、下に向かって大きな声で呼びかけた。

だが、期待した返答は一向に返らなかった。

(あれ、いないのかな・・・。)

それで、もう一回、

「安希子さ〜ん、いないの〜?」と呼んだ。

やはり、返事がない。
もう一度、

「安希子さ〜ん。」

シンとした静けさだけが返ってきた。

(どうしよう、もう時間ないし・・・。)

でも、シャワーだけでも浴びないと。

そう思って、歌陽子が振り返った時、

「わっ!」

「わっ!」

いきなり、歌陽子とすぐ後ろに立っていた安希子が鉢合わせをした。

「・・・って何ですか!」

「ああ、安希子さん、ビックリした。どうして・・・?」

「それは、さっきお嬢様がお呼びになったからではありませんか?」

「だ・・・、だったら、返事くらいして下さいよ。」

「別に、そう言う気分ではなかったので。」

(この人は・・・。)

だが、今はどうしても安希子の力が必要だった。

「あの、安希子さん、ちょっと・・・。」

「あ、無理です。」

「まだ、何も言ってませんけど。」

「とにかく、無理です。仕事があるので。」

すげなくそう言って、安希子はスタスタとその場を去りかけた。

「ちょ、ちょっと、待って下さい。安希子さ〜ん。」

歌陽子は必死で安希子の腕を掴んで引き止めようとした。

「なんでしょう。」

「あの、私、今から身支度をしなければならないので、手伝って貰えません?」

「そうなんですか?」

「はい。」

「いつまで経っても起きて来られないものですから、今日はテッキリお休みかと思いましたのに。」

「あの、それはいろいろと事情があって。」

「それに、宙お坊ちゃまが、歌陽子お嬢様は今日体調が悪いから、絶対起こしてはダメだとおっしゃいましたし。」

(そ、宙あ・・・!)

「安希子さん、とにかく時間がないの。お願い。」

ふうん、と言う顔をする安希子。

「それで・・・。」

「はい。」

「お嬢様を手伝うことで、私に何のメリットがあるんですか?」

「メリットって・・・、それは安希子さんはうちのハウスキーパーですから。」

「つまり、私は雇われ人だから、ご命令にはどんな嫌なことでも従えと、そうおっしゃるんですね。」

「誰も、そんなことは言ってないです。」

「では、これで・・・。」

踵を返し、また立ち去ろとする安希子。

「ちょ、ちょっと、あの・・・、じゃあ、プリンスホテルのランチで。」

その言葉に軽く振り返り、片眉を上げて、

「ディナーで。」

「じ、じゃあ、中華で。」

「和牛で。」

「わ、分かりました。はああ、一ヶ月分のお給料が・・。」

「何を小さいことを言われているんですか。お嬢様は、限度額無しのゴールドカードをお持ちでしょ。」

「あ、あれは、行きつけのブティックとヘアサロン以外は全部止めて貰ったんです。じゃないと、社会人として必死にならないからって、こちらからお父様にお願いしたんです。」

「また、お嬢様、見栄張りでございますねえ。」

「はああ。」

「それより、お嬢様、時間がないのでございましょう。あとはすべて準備しておきますから、早くシャワーを使ってらしてください。」

「あの、ヘアもお願いできます。」

「まあ、和牛の為ですから、仕方ありませんね。さあ、早くお急ぎになって。」

「はい。」

(#121に続く)