成長とは、考え方×情熱×能力#115
ジジイ夜話
「そろそろ、閉館時間ですけど。」
時刻は21時に近くになり、ホールの管理スタッフが声をかけて回っている。
「ふう、何とか、形になりやがった。」
前田町が満足気に言う。
「しかしよお、なんだか、俺らのブースだけやけにサッパリしてねえか?」
周りを見渡して野田平が言った。
周りには、大小のブースがあり、皆なそれなりの装飾が施してあった。
「やれやれ、すっかりプライベートフェアだぜ。これって、ロボットコンテストじゃなかったか?」
「そりゃ、東大寺の名前を大っぴらに使えるんだ。しかも、内容が最先端のロボット技術と来てる。東大寺グループへの意地がもとだったにしろ、ここまで金かけて準備したんだ。いくらかは、客への宣伝に使って元取ろうと考えてもおかしかねえよ。」
「だから、コンテストついでに、うちの製品がズラッと並んでるってわけか。にしても、隣とまた隣は派手だよな。」
野田平が隣と言うのは、今回の目玉の一つ、牧野社長チームのブース、その隣の隣は、宙とオリヴァーのブースである。
ともに、高さ3メートル近くの木組みがしてあり、わかりやすく各チームのロゴが掲げられていた。また、牧野社長のブースは青基調、宙とオリヴァーのブースは緑基調の壁が設えられていて、その中にセッティングが終わり、覆いがかけられた機械が置かれている。
もちろん、それは各チーム秘蔵の技術である。キーテクノロジー部分は取り外して一旦持ち帰られた。そして、会場から動かせない機械には監視カメラとセンサーが取り付けられ、何かあればすぐ警備が駆けつけるようになっていた。
それに比べ歌陽子たちのブースは、椅子と机のセットと、ロボットが一台。そして、パソコンに大型モニターが置かれているだけだった。何の飾り気もなく、ただプレゼンに必要な最低限のものだけが置かれていた。
「ガハハハ、しょうがあるめえ。予算も人手も足らねえんだからよ。」
前田町はさほど気にもならないように笑い飛ばした。
「予算も人手も、ってよお。今更だけど、東大寺の頼みでやってんだろ?しかも、身内のカヨまでこっちにいるのに、何でこんなにみみっちいことをやっているんだよ。」
「仕方あるめえ。東大寺からの金は、コンテストに優勝したらの話だ。嬢ちゃんだって、所詮は一課長に過ぎねえし、その立場で使える金で精一杯やるしかねえんだ。それによ、もし、嬢ちゃんが派手なことをやったら、それこそ『親の七光り』とか言われかねねえよ。」
「だがよ、社長の野郎は自分の肝いりなもんだから、好きなだけ社員を使ってやがるだろ。カヨの弟だって、親父に金を出して貰ってたいそうなことしてるじゃねえか。それをカヨの野郎だけが馬鹿正直によ。ちょっと、納得いかねえぜ。それによ、俺らだけ、こんなみみっちいことしていて、まかり間違って優勝でもしたら、それこそ『出来レース』とか言われるんじゃねえか?」
「それが、東大寺歌陽子のジレンマってヤツよ。なまじ、条件がいいもんだから、何をやっても要らねえことを言われなきゃならねえし、妙な勘ぐりをされる。だけどよ、嬢ちゃんは、生まれた時から東大寺歌陽子をやってやがんだ。筋金入のご令嬢だよ。ここは一つ、嬢ちゃんを信じて好きなようにやらせてやろうじゃねえか。」
「だよな、すまねえ、前田の。大人気もねえ、つい愚痴っちまった。」
「おうよ、俺ら、チャラチャラした見た目に頼らねえでも、腕一本で勝負してきたじゃねえか。むしろ、嬢ちゃんがチャラチャラ飾りやがったら、引っ叩いてやめさせただろうぜ。」
「ふん、前田のジジイらしいや。」
「おう、文句あるけえ、のでえらのジジイ。」
穏やかでない悪態も、彼らにとっては普通のコミュニケーションである。
「そう言えば、カヨはどうした?」
「今、トラックけえしに行ってるぜ。延長料金がかかるとか行ってな。」
「まったくみみっちいやつだな。一晩中、俺らのロボットの見張りをさせようと思ったのによう。」
「まあ、そんなにこき使ってやんな。コアモジュールは持ってけえるし、即席のセンサーを持ってきたからよお、さっさと据え付けて撤収といこうじゃねえか。」
(#116に続く)