今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#109

(写真:輝き)

電源タップ

「まあ、野田平くん、こんなか細い娘さんばかりに無理を言わないで、少しは手伝ったらどうですか?」

優しい日登美は厳しい野田平から歌陽子をかばった。そして、自ら台車の機材をドンドンおろし始める。
野田平と前田町は、それを下に置く間ももどかしく、奪い取るように梱包を開く。
歌陽子も彼女なりに懸命に手伝うのだが、上背の違う日登美のように手際よく作業をできなかった。
やがて、全て機材をおろし終わった日登美も前田町らに加わってセッティングを始める。
しかし、そのころには、もうさっき歌陽子に見せた気遣いは忘れて、すっかり自分の仕事に集中していた。
そして、忙しげに周囲を見渡しながら、

「歌陽子さん、パソコン知りませんか?」と聞いた。

「あ、それ、まだトラックです。」

「え?そう、じゃあ、すぐ取ってきて貰えませんか?」

「あ、はい。」

「もちろん、ディスプレイやキーボードもね。」

「おう、嬢ちゃん、工具も大至急頼むぜ。」

「足と腕はどうしたあ。」

「は、はい!」

「グスグスしてねえで、さっさとしろ!」

「はい〜っ!」

野田平に怒鳴られて、慌てて台車を引いてホールを飛び出す歌陽子。

駐車場へ全力疾走して、やがて荷台をシートで覆ってあるトラックまでたどり着いた。
まずは三人に頼まれたものを早く届けないと、何をいわれるか分からない。
歌陽子はシートをめくって、必要なものを探した。

「えっと、パソコン、パソコン。あ!あった。ああ、大きい。そうか、日登美さん、デスクトップ派だもんね。」

まずはデスクトップパソコンの本体とディスプレイ、キーボードの一式を積み込んだ。
あと、電源タップに延長ケーブル。

「あ、奥にしまってある。しまったあ。」

とりあえず、先に工具と、ロボットの腕と足と思い直して、前田町の工具箱を引っ張り出して積み込む。
そして、ロボットの腕と足を丁寧に包んである梱包を取り出し、工具箱の上に落ちないようにそっと乗せる。
とりあえず、頼まれたものは揃った。
しかし、電源タップと延長ケーブルがなくてはパソコンに電源を入れることはできない。そのまま戻れば、また「グズ」とか「気が効かない」とか罵られるに違いない。
歌陽子は、意を決してトラックの荷台のあと台車4台分の機材に挑んだ。
荷台に這い上がり、電源タップのしまってある一番奥に立ちはだかる荷物を一つ一つ脇によけ、避ける場所がなくなれば上へ上へと積み上げて行く。
そうして、荷物の奥の奥に、電源タップと延長ケーブルの包みが顔を見せた。
歌陽子はなんとかそのまま引き出そうと、姿勢をかがめ、手を伸ばした。

「もう、ちょっと、あと1センチ、あと・・・。」

その時、無理な姿勢で手を伸ばしていた歌陽子の姿勢が崩れた。

「あ・・・。」

慌てて、そばに積み上げた機材の山を掴んでこらえようとした。それで、なんとか歌陽子自身は持ちこたえることができたが、その衝撃で機材の山は揺れてグラついた。

(あ・・・、大切な機材が!)

下に落として壊してしまえば、これまでの苦労が全て水の泡である。
歌陽子は必死に手に掴もうとした。しかし、その努力は虚しく空を切った。

(ああっ!)

歌陽子は心の中で叫んだ。
機材は荷物の山から転がり、荷台の外に落下して行った。

ガチャン!

痛ましい破壊音を歌陽子は心の中で聞いた。
しかし、実際そんな音は響かなかった。

おそるおそる荷台から下を覗いた歌陽子の目を下から見上げたもう2つの目。

「オリヴァー・・・。」

(#110に続く)