今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#107

(写真:色づく頃の思い出 その1)

搬入

「おい、何してやがんだ!早くしろ!お前、ホントにグズだなあ。」

「ちょ、ちょっと、待ってください。少しは手伝ってくださいよお。」

怒鳴りながらズンズンホールに向かう通路を歩いていく野田平と、必死で機材を満載した台車を押してついていく歌陽子。声が半泣きになっている。

「おら、慌てて落としでもしたら、前田町のじじいに半殺しにされるぞ。」

と言っている側から、ガチャンと音を立てて部品の一部が転がった。

「あ〜っ!何やってんだ、てめえ!」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

慌てて拾い上げる歌陽子。
そして、振ってみて、中からカラカラと音がしないのを確認して、

「ああ、良かったあ。」と安堵していると、

「せともんか!この天然バカが!」と野田平の鉄拳が飛んだ。

「ぎゃっ!」

カエルの潰れたような声を出して、痛さに頭を抱える歌陽子。
野田平は、彼女から部品を取り上げると、箱を開いて中を確認する。

「ふいーっ、なんともなかったぜ。これだから、トウシロウは嫌なんだよ。」

するとそこへ、

「のでえら、嬢ちゃん、何やってやがる。もう、5時半じゃねえか。さっさとセッティングしねえと、もう他のヤツら、どんどん組み上げてやがるぜ!」と前田町が現れて毒づいた。
先に場所取りに赴いた前田町と日登美。
他のチームがどんどん組み上げているのに、歌陽子ら搬入班が一向に姿を見せない。
それで、気の短い前田町は焦れて焦れて、耐えきれずにホールから飛び出して来たのだった。

「お、前田の、済まねえ、こいつがグズグズしていたせいでスッカリ手間取っちまった。」

「ちょ、ちょっと、待ってください。私なんか、朝からずっとトラックを手配したり、積めるもの、積んでいたりしていたのに、野田平さんがずっと機械をいじっていて、なかなか出発できなかったんじゃないですか。それに、積み降ろしも全部私一人だし、それで時間がかかると、ずっと怒鳴りまくるし。」

「やかましい。俺らエンジニアの手伝いをするのがお前の仕事だろ。配線一本つなげねえノータリンのくせに、一端の口を利くんじゃねえ!」

言い争う二人の会話を聞きながら、イライラが募らせた前田町は、

「うるせえ、じゃれ合うのは後にしろ!」と一喝した。
そして、

「嬢ちゃん、あと荷物はどんだけあんだ?」と聞いた。

「え・・・っと、あと5回分くらいかと・・・。」

素直に答える歌陽子に前田町はカミナリを落とした。

「バカヤロウ!なら、さっさとしねえか!」

「は、はい!」

「のでえらも、早く持ち場に着きやがれ。」

踵を返して、ホールに急ぐ前田町。大股でズンズン歩いていく。ブスッとして後に続く野田平。さらに、細腕で四苦八苦して台車を必死で押す歌陽子。

明るい感じのホールの入り口を抜けて、会場に入ると、わずか30分のうちにどのようにしたものか、大小のブースが姿を現していた。
特に目をひくのは二つの大きなブース。
どんどん椅子が運び込まれて設置されていく観客席を囲んで、中央が三葉ロボテク牧野社長チームのブース、左側が歌陽子の弟の宙とオリヴァーチームのブース。大きな木枠が組み上げられ、牧野チームは青基調、宙チームは緑基調の壁が取り付けられていた。
そして、そこには覆いをかけたままの機材が運び込まれている。

「ふい〜っ、おい、マジかよ。これ、ただのロボコンだろ?これじゃ、普通の展示会に変わらねえじゃねえか。」

魂消て声を出す野田平。
そして、歌陽子、野田平、前田町、日登美のチームは、観客席に向かって右手。
この時間になっても、まだ何の搬入も行なっていない。ガランとした空間が痛々しい。

「やあ、皆さん。」

日登美が声をかけてきた。

「おう、あんまり遅えんで見に行ったらよお、こいつらじゃれて遊んでやがんだ。頭にきて引っ張ってきたのよ。」

「そ、それは。」

「まあ、歌陽子さん、それより早く準備しないと。」

日登美はいつもの穏やかな声で言った。

「はい。」

(#108に続く)