今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#24

(写真:夕陽の農場 その3)

祭りの後

泰造に呼び出されたクラブで馬鹿騒ぎに巻き込まれ、心身ともに萎え切った歌陽子(かよこ)は、ステージの裏で泰造の旧友のアケミに介抱されていた。

「こ、これなんですか?」

アケミの差し出した一杯を受け取った歌陽子が恐る恐る尋ねる。

「大丈夫、軽い気つけよ。」

「あの、お酒ですか?私、今日車なんでアルコールはちょっと。」

片方の眉を少し上げてアケミは、

「何言ってんの。あんたの車、フェラーリでしょ。もう、足腰たたないじゃん。そんな子に運転させられないわ。」

「分かりました。タクシー呼びます。」

素直に歌陽子が答える。

「必要ないよ。もうすぐ旦那くるから、ついでに乗せてってあげる。」

「そんな悪いです。」

「いいって。それよりあんまり遅くなると家の人が心配するでしょ。はやく、グッとのんじゃって。」

「はい。」

アケミにの言葉に従って歌陽子は、飲み物に口をつけた。

「それとねえ、それ結構度数キツイから、無理だったら少し飲んでやめときなよ。」

「え・・・。」

めがね越しのキョトンとした顔で歌陽子が答える。

「う・・・ひっく!」

そう、アケミの注意が少し遅かった。
歌陽子は、本当にグッと飲み込んでしまっていた。
口当たりが良くて、お酒に慣れていない人も無理なく飲める。でも、とても度数が高い。
そんな甘めのカクテルを通称、レディキラーと呼ぶ。
お酒に弱い女子を酔わせて、なんとかしてなんとかしようと良からぬことを考える男子が付けた名前かも知れない。
一口飲んで、甘くて結構いける。それで安心して飲み干してしまう、今晩の歌陽子はそんな迂闊な女子だった。

2、3度しゃっくりをしたら、急に心臓の動悸が早くなった。頭がボーッとして、顔が異様に熱くなった。

「ああ、あ〜あ。もう、しょうがないなあ・・・顔が真っ赤だよ。」

半分心配して、半分呆れて声をかけるアケミ。

「ら、らいりょうふれふ。」

いきなりロレツが回らなくなっている歌陽子。

「あんた、ホントはお酒は苦手なんじゃないの?」

「ぜんぜん、らめれふ。れ、れも、あまくて、おひしくて・・・じゅーすかなって、かんひがいひて、ぐっとのんじゃいまひた・・・。」

そこで、ガックリと前に頭を垂れて黙り込んだ。そして、スースー寝息を立てて眠りこんでしまった。

「あ、しょうがないなあ。たった一杯でへべれけなんて、いまどきこんな娘もいるんだねえ。まあ、少し寝せておいたら気分も良くなるだろうし。」

しばらくして、マサトシが顔をだした。

「おい、旦那きたぞ。」

「そう?ちょっと、カヨコ、カヨコ。帰るわよ。」

アケミは、眠りこんでいる歌陽子の肩を揺すって起こそうとした。

「疲れて寝てるのか?」

「まあ、泣いたり喚いたり忙しかったからそれもあるだろうけど、さっき強いカクテルを一気にあおっちまってさ。
それより、泰造はどこ?
張本人のあいつはどうしてる?」

「向こうでケロッとしてはしゃいでるよ。いい気なもんだ。」

「そう。もう一回この娘にちゃんと詫び入れさせようと思ったんだけど。」

鼻から息を吐いたアケミは、男ってしょうがないねえと言った表情をした。

「そこは、任せとけ。あとで、キッチリアイツラと反省会しておくからよ。」

そう言って、少し顎を上げてあわらになった喉ボトケに親指を横に立てて、ギッとクビを刎ねるマネをした。

「ねえ、お手柔らかにね。あんまりやり過ぎてアメリカに逃げ帰られでもしたら、困るのはこの子だからね。」

「だけどさあ。」

「なにさ?」

「アケミ、お前いい女になったよな。」

「こらあ、いくらモトカノだからって、亭主持ちに言うことじゃないでしょ。」

「へへっ・・・。それより旦那待たせてるぞ。」

「そうだね。おい、カヨコ、カヨコ!起きろ!カヨコ!」

また一生懸命肩を揺すったが、しかしラチがあかないと見るや、アケミは小さな拳を固めて、眠りこんでいる歌陽子の頭をボコンと叩いた。

その衝撃に、歌陽子は慌てて飛び起きて、

「は、はひ!のだひらさん、すひまへん!」

と叫んだ。

「はあっ?あんた、何言ってるんだい?」

「へ?わたひなんて?」

「バカだねえ、アハハ。」

「へっ、えへへ。」

野田平にいじめられている夢でもみていたのか、歌陽子は恥ずかしそうに照れ笑いをした。

(#25に続く)