今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#144

(写真:石小僧)

ARTIFICIAL BODY

ステージの自立駆動型介護ロボット『ARTIFICIAL BODY』は、パックリと正面に口を開け、搭乗者を待ちわびていた。
真下から見上げる梨田夫人にとって、ロボットの本体はとても高い位置に思えた。

「ねえ、あそこまでどうやって登ったらいいのかしら?」

歌陽子を振り返りながら、夫人が聞く。

『ARTIFICIAL BODY』は、外殻だけで中身がない。まるで鎧のような姿をしている。肩当、袖、胴、佩楯、臑当、鎧のパーツがケーブルで結ばれている。

歌陽子も少し思案をした。

「このロボットは、さっきのとは違って乗り込むタイプではない気がします。どちらかと言うと、着るといった感じがしっくり来ます。」

「そうねえ。だったら、どうやって着たらいいのかしらねえ。」

問われても答えられない歌陽子は、助けを求めるようにステージの横に立っている宙の顔を見た。

「チェッ。」

観客には聞こえないように小さく宙は軽く舌打ちをすると、ブース脇のオリヴァーの部下たちに合図をだした。

心得たように、異国のビジネスマンたちはステージの表に姿を現し、鎧のパーツを外し始めた。パーツとパーツをつないでいたケーブルはあっさりと切り離され、一つ一つが軽量な部品としてマダム・ピアの元に持ち運ばれた。

彼ら、オリヴァーの部下たちは、まるで高級テーラーの店員のように、取り外したパーツを持って梨田夫人の周りに侍した。
そして、
「マダム、失礼します。」と声をかけ、順番に夫人の身体にパーツを取り付けて行った。
足の不自由な夫人に負担をかけないように、王侯貴族の着替えを行うような丁重さで、一つ一つのパーツが取り付けられていく。
それを歌陽子は少し離れたところから、見守っていた。
彼らは、丁寧に梨田夫人の腕を取り、肩当や袖の部分を装着する。胴を装着し、佩楯、脛当も梨田夫人が腰を浮かすことなく装着を完了した。

「あの、マダム、重くないですか?」

歌陽子は、鎧のようなロボットのパーツに埋もれた梨田夫人を案じて聞いた。

「ゼエンゼン、大丈夫。少しぎごちないけど、重くはないわ。」

やがて、オリヴァーの部下たちは、またケーブルを元どおりつなぎ始めた。また、一部は、夫人の肌に吸盤型の端子で直接つなげられた。
そして、少し重量のあるフレームが鎧の左右に取り付けられた。

最後、オリヴァーの部下の一人がフレームの電源をオンにすると、側にいた歌陽子にやっと伝わるくらいの静かな振動でアクチュエイターが回転し始める。
彼が、目配せで合図すると、ヘッドセットのマイクを通して、会場全体に響き渡る声で宙はマダム・ピアに話しかけた。

「さあ、マダム、立ち上がってください。」

足腰が立たない梨田夫人は、そう呼びかけられて明らかに戸惑った顔をした。

(#145に続く)