成長とは、考え方×情熱×能力#111
愚人の会話
「え?」と足を止め、振り返るオリヴァー。
「ワンモア、アゲイン。」
流れでつい口にしたことをもう一回繰り返せと言う。分かってやっているなら、オリヴァーはかなりの小悪党である。
「い、いえ、なんでもないです。」
歌陽子は無難にごまかすことにした。
だが、
「確か、『バカなの?』って聞こえた気がしたけど。」
(なあんだ、全部聞こえてるじゃん。)
だから、観念して素直に答えた。
「はい・・・、そう言いました。」
「カヨコ、君、前にも僕に『ヘンタイ』って言ったよね?」
(うわあ、覚えてる!)
あの時は、オリヴァーにしたたかにみぞおちをぶたれた。
「あのさ、僕に『ヘンタイ』とか『バカ』とか言う女の子はアジアじゃ君くらいだよ。」
「じゃあ、アジア以外ではあったんですか?」
機転を利かせて歌陽子が切り返す。
「え、まあ、シリコンバレーじゃいつもだったよ。東洋系はどうしても軽く見られるからね。だけど・・・、カヨコの『バカなの?』はそう言う意味じゃないだろ?」
「・・・。」
歌陽子は、しばらく返事を控えて沈黙をした。オリヴァーにどう答えようか、彼女なりに考えを整理をしたかったのだ。
「あの・・・、日本の女性が相手にバカと言うのは、その人の知能、そうインテリジェンスに対してよりも、その行動、アクションに対してです。
オリヴァー、私はあなたの事を愚かな人だとは少しも思っていません。むしろ、恐ろしいくらい頭のいい人をだと思っています。だけど、あなたのとっている行動は、そんな賢い人のすることにはとても思えないんです。」
「そうかな?僕がトウダイジとトレードすれば、ビジネスを何十倍にも大きくできる。それにトウダイジが手に入れるものも小さくはないだろ?」
「だけど、あなたほどの人、東大寺グループじゃなくても引く手あまたでしょ?それに宙みたいな子供と組まなくても、お父様に直接話をした方がずっと早くなくて?」
「確かにね、シリコンバレーのコネクションを使った方が、スタートアップと組んでよほど面白いことができるかもね。
だけどさ、人間は時々ドントアンダースタンドなことをするよね。現にカヨコだって、わざわざタイゾーみたいなノーコントロールなヤツをチームに入れてるだろ?カヨコなら、いくらでももっとエクセレントなプログラマーが雇えただろ?しかも、タイゾーは最初カヨコのチームを嫌がっていたそうじゃないか。それをチームに入って貰うために、タイゾーのフーリッシュパーティにまで付き合ったんだろ?
バカなので言えば、カヨコも負けていないよ。」
「それは・・・、これは会社の業務ですから、私個人のお金は使えませんし、泰造さんがうちのチームメンバーの息子さんだったからもあります。最初は、軽い気持ちで力を貸して貰おうってしたんですけど、お父さんと上手くいっていないって聞いて、これは何とかしなきゃって、だんだん意地になってきて。」
「ふうん、ギリとニンジョー、カヨコもジャスト、ジャパニーズだね。」
「でも、オリヴァーは違うでしょ?」
「いや、君と同じだよ。タイゾーから聞いたよ。君はタイゾーに向かって、『あなたがいいんです、あなたじゃなきゃダメなんです』っていったろ。だから、僕も同じ。
カヨコがいたから、ソラやトウダイジとコネクションを持とうと思った。
そして、オヨメサンニクダサイは、僕のトゥルーハート。」
「もう、冗談言わないでください!」
怒りながらも、照れて真っ赤になる歌陽子。
「私は、希美さんや由香里さんのように美人でもないし、チャーミングでもないし、優秀でもないし、メガネ女子だし・・・。
あ・・・、ひょっとして・・・。」
何か気がついてしまった歌陽子。
「何?」
「贅沢なスイーツを食べ飽きて、田舎の漬物が食べたくなったってこと?」
「ええ!は、そりゃいい!傑作だ!それはそうかも知れない!」
そして、空に向かって高笑いするオリヴァー。
自分でボケたくせに、自分自身を田舎の漬物とくさされて、やはり面白くない歌陽子。
またまた、口を尖らせている。
そこへ、ホールの方から怒声が飛んできた。
「こらあ、カヨお!てめえ、何油売ってやがる!さっさとしねえか!」
うわあ、野田平である。
(#112に続く)