今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#106

(写真:夜陰)

前夜

それから、約1カ月間。
歌陽子の日常は割と平穏に過ぎた。

先代老人は、富士山麓の農場に帰り、桜井希美と松浦由香里は、後期試験のため留学先に戻った。
そして、年始からの雑務に忙殺された克徳や志鶴とは家でもあまりしゃべる機会はなく、安希子も東大寺家のハウスキーパーらしく、歌陽子たち家族の世話を手際よく、かつ粛々とこなしていた。歌陽子との確執も、あの日からなんとなく解消しつつあった。
そして、弟の宙とは相変わらず、気持ちが通わないままだったが、それは今に始まったことではない。むしろ、ロボットコンテストに向け敵同士、より一層よそよそしくなっても不思議ではない。
ロボットコンテストのもう一方のライバル、牧野社長一派とも、特に意識し合う関係ではなかったが、何やら特別チームを編成して本業そっちのけで頑張っているらしい。本館の技術課の一室の電気が毎晩遅くまでついているのが気になった。
一方、開発部技術第五課に対する通常業務の依頼は大幅に減り、その分歌陽子たちはロボットコンテストに向け準備に専念できた。もしかしたら、村方あたりの差し金で、仕事の量が減らされているのかも知れない。
あと、最大の強敵、オリヴァー・チャン。
あのバースデー以来、都内の何処かに身を潜め、歌陽子の前には一切姿を現していない。
ひょっとしたら、律儀に「歌陽子に対して手を出さない」と言う先代との約束を守っているのかも知れない。
もちろん、オリヴァーと歌陽子はれっきとした敵同士。片や東大寺の名を背負って、片や東大寺の名前が欲しくて、ロボットコンテストの栄冠を求めている。そして、今はお互いの手の内は秘めておく時期なのだ。
ただ、転んでもただ起きないオリヴァーは、毎日歌陽子に自撮りした画像付きメールを寄越した。全く教えてもいないのに、どうメアドを調べたのか?宙からなのか、泰造からなのか、ひょっとしたら、いつもCCが入っている希美か由香里あたりから聞き出したのかも知れない。
当然、歌陽子は送信先を見ただけで、ピッと削除した。だから、その手間を除けば大して気にもならなかった。

そして、2月10日、いよいよロボットコンテスト前日。
東大寺グループからの申し入れで、都内の中規模のホールがロボットコンテストの会場として提供された。
東大寺の名前を冠するには少々小ぶりの感は否めないが、三葉ロボテク規模の会社の催し物に使うにはむしろ大き過ぎる位である。
そして、かねてからの通達に従い、歌陽子たちはコンテスト出場用のロボットや、プレゼンのための環境機器を搬入した。

搬入開始は午後17時。それが会場側から提示された搬入を行なって良い時間。
それから、21時の閉館までに搬入とセッティングを済ませなければならない。
会場は商業用ではなく、区の管理する施設。
それは今回ロボットコンテストに地元の少なからぬ老人介護施設の入居者やその家族、そして老人会のメンバーを招いているからだった。そこは、彼らが気軽に参加できる会場であると同時に、東大寺グループの意向が届きにくい場所でもあった。だから、少々搬入の条件が厳しくても従わざるを得なかった。

しかし、それも東大寺グループ代表 東大寺克徳の発案によるものだった。
ロボットの性能やプレゼンの内容を審査するには、今回はあまりに上層部の思惑が絡み合っていた。
東大寺グループ代表の克徳としては、自分の肝いりの歌陽子のチームを勝たせたいのが人情である。また、三葉ロボテク社長の牧野も自分のチームを持っている。
そうすると、審査の公平性を保つために第三者の目が必要になる。それを、実際の介護ロボット利用者の高齢者や、その介護家族に頼むというのが克徳の考えだった。

(#107に続く)