今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#60

(写真:東尋坊 その2)

宣戦布告

「歌陽子、宙、皆さんの前で何を言い合っている。せっかく、来てくださった皆さんに失礼だとは思わないのか!」

父、東大寺克徳は、子供たちを厳しく叱責した。
ただ、歌陽子はとんだトバッチリである。
しかし、歌陽子は素直に謝った。

「申し訳ありません。」

それに対して、宙は黙って下を俯いてしまった。

「まったくしょうがない子供たちだ。」

そして、克徳は軽く右手を上げた。
ただそれだけで場を鎮める貫禄を持っていた。

「皆さん、申し訳ありません。単なる兄弟喧嘩です。気になさらずに、どうかパーティをお楽しみください。」

克徳の登場で一瞬ピンと張り詰めた空気が、その一言でホッと緩んだ。
その中、満面の笑みを浮かべて、克徳に話しかけた人物がいる。
オリヴァー・チャンである。

「プレジデント・カツノリ。私はオリヴァー・チャンと言います。お会いできて光栄です。」

「オリヴァー・・・チャン・・・、どこかで、ああ、宙から名前は聞いています。今度、一緒に仕事をしてくれる人ですね。」

「はい。ソラとは、前からネットでの知り合いです。」

「しかし、あなたの身なりからすると、とても子供の小遣いや、私の渡した僅かばかりの金で雇える人に思えませんが。」

「はい、私、シンガポールでAIの会社を立ち上げています。仕事は日本に居てもできますし、なんとか時間を作ってソラくんを手伝います。」

「にしても、滞在費はこちらで見るとしても、ただと言うわけにはいかないでしょう。」

「もちろん、ただではありませんよ。私は1日10ドルです。」

「10ドル?それでは子供の小遣いだ。」

「私は、必要ならば1日10万ドルを貰うこともあります。しかし、興味が沸けば1日10ドルでも働きます。」

「ほう、ソラはそんなに面白いですかな?」

「はい、彼はリトルジャイアンツです。ですが、もっと興味があるのは、トウダイジ、あなた方です。」

語るに落ちたか、そう思って克徳は少し眉をひそめた。

「私どものグループと、これを機会に付き合いたいと言う訳ですか。ならば、こんな子供ではなく正式なルートから来られたら良いではないですか。門戸はいつも解放しているはずです。」

「分かっていますよ。しかし、そうすると、まずはあなたの部下のマネージャークラスと話をすることになります。その後はディレクター、オフィサーと幾つものステップを通らなければなりません。しかし、プレジデント・カツノリ、今あなたに直接プレゼンテーションができるチャンスがあるのですよ。生かさないわけにはいきません。」

「なるほど、分かりました。しかし、歌陽子のチームは去年の10月から準備していますし、三葉ロボテクの牧野社長のチームもあの口ぶりでは、去年あたりから相当準備を進めています。あと一ヶ月少しですが、今から間に合いますかな?」

「大丈夫です。ソラは、リトルジャイアンツです。クラウドソーシングでかなり優秀な技術者を見つけています。それに、私の会社はロボット用のモジュールもワンセット持っています。それを使えば、インデペンデンス・ドライブなロボットを早く作ることができます。」

「つまり、宙とあなたのチームが勝てば、あなたの会社のモジュールを東大寺グループで正式に採用して貰いたいと言うことですな。」

我が意を得たり、と言わんばかりのオリヴァー、嬉しそうに言葉を継いだ。

「はい、そうです。決して悪い話ではないでしょう。」

「いや、さすが海外の方だ。正直ですな。」

「はい、正直だけがトリエです。」

この男、意味を分かって使っているのかと訝りながら、彼の商才は認めざるを得なかった。
なぜなら、今回の自立駆動型介護ロボットがうまくいけば、その後にグループが総力を挙げて取り組むロボティクス事業でも欠かせないパートナーとなるだろう。
この男、そこまで読んで宙に取り入ったのか。

「だが、全てはあなたと宙のロボットを見てからです。歌陽子や三葉ロボテク以上のものが作れたら考えましょう。」

「有難うございます。ぜひ、頑張ります。それと、もう一つ。」

ニッコリ笑って、オリヴァーは人差し指を立てた。
その時、周りの女子から、ため息が漏れた。みな、オリヴァーの笑顔に心を掴まれたのだった。

「もし、僕が勝ったらもう一つお願いがあります。」

「なんでしょう?」

「カヨコを、カヨコさんを僕のおよめさんにくれませんか?」

一瞬、小せがれめ、何を言う!とこみ上げた。東大寺家の娘を嫁に貰いたいとだと!それは、露骨に東大寺の資本を狙っていることになるのだぞ。

しかし、克徳はあえてその感情を抑えた。
場合によっては叩き出されてもおかしくないことを、ここであえて言うオリヴァーの真意を知りたかったからである。

「それと今回のことは何の関係もないでしょう。それに歌陽子自身の気持ちの問題です。東大寺グループのビジネスとも何の関係もありません。」

「ならば、僕がカヨコさんにプロポーズして、彼女が受けてくれたら良いですね。」

また、周りから今度は羨望のため息が漏れた。もう、女子の多くは彼に恋をしてしまっていたのだ。

「ま、あなたが、コンテストに勝って私どもが親しくお付き合いをするようになったら、の話ですがね。」

オリヴァーは歌陽子に向け、とびっきりの笑顔を向け、

「カヨコ、僕はコンテストにも勝つし、必ず君のハートも手に入れてみせるよ。」

と甘い声で言った。

確かに、オリヴァー・チャンは飛び抜けたニ枚目だし、優秀で、頭も切れた。

しかし、歌陽子は、

この手の男は・・・、

生理的にムリだった。

(#61に続く)