今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

コトと仕組みで初めて動く

(写真:柿田川の流れ その3)

モノとコト

『モノづくりより、コトづくり』がスローガンのように言われ始めて、久しく経ちます。
製造業が日本の産業の花形だった時代、欧米より低コストで品質の良いものを生み出していたので、消費者はこぞって手に取りました。今でも、国産と聞くと半ばブランド的にその質を信頼するのは、その時代の名残でしょうね。
そんな時代は、まず良いものさえ作れば売れたので、『モノづくり』は勝てるビジネスモデルでした。
しかし、ご存じの通り、消費者である私たちは豊かさに慣れ、消費は多様化して行きました。
車一つとっても、「皆んなが乗っている良いので車だから自分も乗ろう」と言うより、「自分だからこの車に乗ろう」とそこに自分なりの物語を求めています。
例えば、カラーバリエーションにこだわったり、メーカーのスペックに賛同したり、あるいは買い物に便利なようにとか、介護に都合が良いようにとか、課題解決で車種を選定します。
つまり、消費者の課題やそれが解決した時のビジョン、あるいは特別な物語に訴求するのが『コトづくり』です。

モノにとらわれているとコトは生まれない

『モノづくり』は『ニーズ』、『コトづくり』は『ウォンツ』と翻訳できるかも知れません。
『ニーズ』は、今現に求められているものです。だから、作りさえすれば買い手がいます。
ソフトウェアの世界で言えば、会計、給与ソフトがそれに当たります。
会社にとって、会計、給与ソフトはどこでも必要です。小規模事業者が、会計士や社労士に業務を委託している場合を除けば、一定以上の規模の会社なら、必ず導入されていると言って良いでしょう。
「ならば、うちも会計、給与システムを作って売ろうか」、そう今から後発組が考えるかと言えばそれは違います。
なぜなら、会計、給与のような業務系システムは、O社やY社のような大手ベンダーがシェアのほとんどを占めているからです。
たくさん顧客がいれば、高機能の製品を信じられない低価格で提供することが可能です。
それは、例えば一億円の開発費を、10社で負担すれば一千万円ですが、一万社で負担すれば一万円になるからです。
ここに『ニーズ』、つまり『モノづくり』の一筋縄でいかないところがあります。
しかし、この牙城に噛み付いたスタートアップがありました。それは、無料クラウドソフトを提供している事業者です。
そして「会計ソフト」と「無料」と言う、一見結びつかないワードでいきなり登場しました。
正直、二つの点で疑心暗鬼を生みました。
1、そんな無料の会計ソフトなんて使い物になるの?
2、企業情報を見も知らぬ事業者に預けても良いの?
でも間違いなく、消費者の関心を引きました。
会計処理は大切ですが、決して利益を生むものではありません。ソフト費用は、いわば必要経費なので安ければ安いに越したことはありません。まして、それが無料なんて!
そして、その時消費者の『ウォンツ』がくすぐられ、『コト』が動き始めました。

安寧に地をつけているとコトは動かない

私も実際にこのクラウドサービスのアカウントを持っています。
そして、たまに開いて見ています。
最初のころ見たイメージはあまりハッキリと覚えていませんが、家計簿ソフトのよくできた版かなと思った記憶があります。
ひょっとしたら、法人/個人版の個人の方を見ていたかも知れません。
そして、今改めて見直してみると、取引、入金、支払、振替などいろいろな会計のシーンに合わせてメニューが作られており、専門の経理マンでない私からは結構いけるように思えます。
それにクラウドは、電話のサポートサービスはあっても、基本はお客さんが自分で理解して運用しなければなりません。そのため、直感的に動かせるようによく考えて作られています。
また、決算書類や請求書まで出せてしまうので、日本の大多数をしめる小規模事業者はこれでこと足りるでしょう。
さらに、外部のエクセルやPDFファイルからの仕訳の取り込みを対応し、果てには銀行と協業して、会計データをもとに融資審査までする仕組みを整えています。
それで、本格導入を決めても、月額1980円とか、3980円で済んでしまうのですから驚きです。
それをこの数年のうちに成し遂げています。その急成長の源はなんと言ってもそのスピード感です。フリー版でこうして欲しいと声が上がればすぐに修正しアップロードする。新しいビジネスモデルを思いつけば、すぐに取り組んで実現する。
常に検討、常に改善、常に提供。
投資判断をして、製作に何年もかけ、リリース後一定期間をかけ回収という従来のルーチンワークから完全に外れています。

コトと仕組みで初めて動く

このクラウドサービスの『ウォンツ』つまり生み出した『コト』とは何でしょうか。
それは、最近ネットの世界で増えてきたフリーランスや、あるいはECをメインにしている小規模事業者の、会計ソフト未満、エクセル以上の業務を効率的に行える仕組みを提供することです。
そして、ターゲット層がそこである以上は、それに合わせた価格帯でなければなりません。
当然、販売や、販売に伴うパッケージングや出荷コストはかけられません。
すると当然クラウドで、お客さんが自律的に運用できる仕組みを選ばざるを得ません。
いやむしろ、クラウドの仕組みが広がるにつれ、逆発想的に生まれたサービスかも知れません。
正直言えば、私たちパッケージベンダーから言えば非常に気になりますし、注目したい会社です。なぜなら、近未来のソフトウェアの提供形態を高い精度で暗示しているからです。
そして、今市場を席巻している大手ベンダーも、そこへ行くか、あるいは消え去るかの選択を迫られるでしょう。もし、従来通りのビジネスモデルが可能とすれば、それは単なる時間差の問題なのです。
『モノづくりよりコトづくり』
それを見事に体現したこの会社を今後とも注目して行きたいと思います。