今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

すぐ承認される企画はロクなものでない(其の肆)

(写真:新宿三丁目)

三衛門の策略

「まこと、面目もなきことにござれば。」
矢傷を受け、痛々しい姿を晒している二衛門こと、二宮郷衛門を見て領主、稲場龍興も痛々しげな顔つきになった。
「そなたのような剛の者にそこまで手傷を負わせるとは、結城団右衛門、なかなか油断ならぬやつじゃ。それにしても、此度のこと、いつから看破しておったのであろう。」
「それは・・・。」
二衛門が言い淀んだのを、一衛門こと、一瀬惣衛門が継いだ。
「まさか、牛攻めの計までは見破ってはおりますまい。ただ、出城まで騎馬で攻め上がられぬよう備えをしていたのでしょう。それが、たまたま秋津方には僥倖となったのでございます。
しかし、秋津方を警戒するあまり、出城近くの調べを怠ったは我らが失態。誠に申し訳なき次第にて。」
それに、慌てて二衛門も言い添える。
「あ、いや、此度は拙者が先走ったこと故。」
「まあ、良い。死人が出なんだはせめての幸いじゃ。
しかし、秋津方は『牛を馳走になる』と言うたのじゃな。」
「如何にも。」
「してみると、計らずも奴らに兵糧を与えたことになるのお。口惜しいことじゃ。」
そこに、三衛門こと、三田真木衛門が口を挟んだ。
「なれど、あの出城にはよく分からぬことが多々ござる。」
「三衛門、申してみよ。」
「まず、出城は我が領内に位置いたしまする。なれば、どこから兵糧を調達しているのでござろう。また、最初の結城団右衛門の謀反の時なども、あれだけの秋津兵がいずこより湧いてでたものか。」
すかさず二衛門が口を挟む。
「あれは、秋津方に張り出した断崖をよじ登って現れたのではないのか?」
「わしも、一時そう思ったが、あの峻険を鎧具足を担いでよじ登るのはやはり無理がある。
我らの知らぬ秋津領への抜け道があるやもしれぬ。」
そこで、ハタと膝を叩いて領主、稲場龍興が声を上げた。
「そうか、結城め、事前によく周りを調べた上で、我らにあの地に出城を築かせたのじゃな。おそらく、かの一本道以外に秋津に抜ける道を存じておるのじゃろう。」
「なるほど、そう思えば合点がいきまする。」
「ならば、まずは周囲を隈なく探索し、その兵糧を断つよう算段致しまする。」
「うむ、まずはそれじゃの。」
そこで、三衛門が膝を進めて進言した。
「ついては、今度はこの三田真木衛門めの策をお聞きくだされ。」
「申してみよ。」
「私めの得手は鉄砲にござる。されば、出城の周囲を探らせてほど良い足場を見つけ申した。そこに鉄砲を持ち込んで時期を待ちまする。そして、出城の外に結城団右衛門が姿を現した時を逃さず、奴めを撃ち抜く所存。」
「して、その足場から出城はいかほど離れているのじゃ?」
「およそ、十町ほどにござる。」
「十町とな。いかに鉄砲上手のそなたとて、それほど遠くの獲物を撃ち抜くのは叶うまい。そもそも玉が届かぬじゃろう。」
「なんのこの新式銃は、火薬を今までの倍こめることができます。十町先の的とて決して無事ではおきませぬ。」
「しかし、しかと団右衛門と見定めて撃たねば、雑兵ごとき撃ったところで、余計守りを固くされるがオチぞ。」
「殿もご記憶のことと存ずるが、結城団右衛門が具足につけている飾りものは、陽を浴びると遠目にも分かるほどに光りまする。そこを目掛けて放てば、まず仕損じることはありますまい。」
「うむ。ならば、次は三衛門、そちの策を試みるが良い。」

狙撃

三衛門は、わずかな配下とともに、出城の結城団右衛門を狙撃せんと、予てより下見していた岩場に登った。
そして、出城を十町の先に眺め、はや3日が経とうとしていた。
出城から陰になる場所に仮屋を建て、煙が漏れぬように煮炊きを行ない、夜はそこで暖を取って休んだ。
日が登れば、出城を望むことができる岩場を銃眼にしてひたすら結城団右衛門が姿を現わすのを待つ。狙うは結城が具足に付けた飾りものの光である。
おとといと昨日は、雲がでて十分陽がささなかった。これでは、遠目に分かるまで結城団右衛門の飾りものが光を放つことはない。
しかし、今朝は眩しいほどの太陽が東天から姿を現した。
「いざ、今日こそは。」
三衛門は心に期するものがあった。
しかし、背に陽を浴びている朝のうちでなければ、飾りものの光を認めることは出来なかった。太陽が中天を超えてしまうとかなり至難になる。
そして、今日も太陽ははや中天にさしかかろうとしていた。しかし、未だ結城団右衛門の姿は認められなかった。
「口惜しや。またしても・・・。」
三衛門は、せっかく恵まれた好天でありながら、狙撃の好機を得られぬことを惜しんだ。
しかし、なおも諦めきれぬように銃を構えなおし出城を睨み続けた。
その刹那、
キラッと出城から一条の光が発せられた。
「今ぞ!」
いつでも使えるように用意してあった火種を鉄砲の火縄に点火し、狙いを定めて轟音とともに彼方の出城を目掛けて放つ。
「グワワアアアン!」
遠く、出城の中で人影が倒れこむのが見えた。
「手応えあり。結城団右衛門を討ち取ったり!」
その時、一筋の光が弧を描きながら天空に舞い上がるのが見えた。やがて、そのまま出城を離れて、近くの深い谷底に吸い込まれて行った。
それは、結城団右衛門の具足の飾りものが銃弾に弾かれて、千切れ飛んだに違いなかった。
しかし、
次の瞬間、倒れ込んだ人影がむくりと起き上がった。そして、わらわらと駆け寄った兵に抱えられて物陰に姿を消してしまった。
「ちい、抜かったわ。あの飾りものが団右衛門めを貫く前に玉を弾きおったとは。まことに命冥加なヤツ。
なれど、この策は二度と使えはせぬ。」
口惜しそうな表情を浮かべ、三衛門は固く唇を噛み締めた。
そして、狙撃に失敗した三衛門以下、配下の武士たちは早々に岩場を引き払ったのであった。

(その伍に続く)