今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

ピークの6秒

(写真:トワイライト・ライン)

■ピークの6秒

ピークの6秒、つまり本当に危ないのは6秒間。これを過ぎれば、取り敢えず危機は回避できると言います。
ムラムラと怒りの感情が湧きあがってきた6秒間に、怒りに任せて暴挙に出やすい。暴挙に出れば、必ず後悔します。
店員の対応に腹を立てて、思わず手が出て警察の厄介になった人を知っています。
あまりに責めてくる上司に腹を立てて、暴言を吐いて首になった例もあります。
ひどい例は、奥さんから見送りの言葉がないことに腹を立てて、家に放火。子供もろとも、自分の家を焼き払った人もいました。
これら、この6秒で怒りに身を任せて、引き起こした悲しい結果です。
つまり、ピークの6秒さえ凌げば、防げた悲劇なのです。

■怒りの特性

怒りの原因はいろいろあります。
自分のしたかったこと、あるいは欲しかったものが邪魔されて、突発的に湧き上がる怒りもあるでしょう。
あるいは、長い間、恨みの感情を溜めて、腹底に沸々と煮えたぎっている怒りもあるでしょう。
前者の場合は、突発的な凶行に及びますし、後者の場合は、周到に準備して計画的に実行するかも知れません。
(以下は、突発的な怒りの対処の仕方なので、それを前提に読み進めていただければ幸いです。)
さて、突発的に湧き上がった怒りは、また鎮静も早いと言う特性があります。
先人の言葉に、
「腹が立ったら10数えよ、それでもおさまらなかったら100まで数えよ」と言うものがあります。
腹が立った時、思わず衝動に身を任せたくなりますね。つまり、欲を邪魔されて怒りが湧いて来たら、その邪魔者を排除したくなります。
これは動物ならば、割と普通の反応です。
食べている餌を取り上げると、短気な犬は飼い主にも嚙みつきますから。
でも、動物ならぬ人間には、社会生活があります。つまり、本当に噛み付いたり、殴りつけたりすれば、著しくその後の立場を損ないます。
そのために、私たちは日頃乱暴な言動は控えていますが、怒りが湧いた時は、つい動物的な衝動に身を任せてしまいます。いや、むしろ、そうする正当な理由がある、だからしなければならないとすら思っています。いわば、一時的に正気でないのです。
しかし、その怒りも6秒を頂点に徐々に醒め、振り返って見ると「なんと馬鹿なことを考えていたのか。怒りに任せて身を誤らなくて良かった」と胸をなで下ろすこと、一方ではありません。

■高僧の教え

このような話があります。
とある武士が、高僧からこのような教えを受けました。
「腹が立ったら、10歩下がって、10数えよ。さすれば、怒りは日に当たった雪の如く消え去るであろう。」
その時は、あまり深く受け止めなかった武士でしたが、それから10年後のこと。
何年かぶりに妻の待つ我が家に帰った件の武士が家の前に立った時、夜分なのに戸の向こうから何やら話声がします。
はて、この時間に来客か?そう訝って戸を少し開けて中を伺うと・・・
何と、見知らぬ男が上がりこんでいて、楽しそうに妻と歓談をしているではないですか。
(おのれ!俺の留守をよいことに不義密通を働くか!)
頭に血の上った武士は、今にも刀を抜いて家の中に斬りこもうとしました。
しかし、その時、あの高僧の言葉を思い出したのです。

■身を過たなかった武士

「腹が立ったら、10歩下がって、10数えよ。」
それで、ここは衝動に任せてはならじと、教えの通り10歩下がって、10数えました。
すると、激情が少しおさまり、冷静に考えられるようになりました。
・・・ここで、二人を斬り殺せばこの身は科人、家は断絶、親もどんなに悲しむことか。まずは、二人の言い分を聞いてからでも遅くない。
そう思い直した武士は、一呼吸して心を鎮めてから、家の戸を開けました。
すると、中の二人が武士に声をかけてきたのです。
「あら、あなたお帰りなさい。」
「これは婿殿、疲れたじゃろう。」
なんと、見知らぬ男と見えたのは、男の着物を着て、頰かぶりで顔を隠していた妻の母親だったのです。
驚く武士に妻の母は、ニコニコしながら訳を話しました。
「実はのお、生活の足しになればと、夜に内職をしているのじゃが、なにせ女二人では不用心でのお。それで、わしが男のなりをしておるのじゃよ。」
それを聞いた武士は愕然とし、「もし、あのまま斬り込んでいたら、妻のみならず、母までも手にかけるところであった。早まらなくて良かった」とがっくり手を付き、彼を諭してくれた高僧に心から感謝するのでした。

ピークの6秒、あるいは10数える間、この間我慢すれば、相手を傷つけずに済んだとか、信用を落とさずに済んだと思うことはたくさんあります。
怒りにかられている間は、正常な判断力が失われ、自分のどんな行いでも正当化する心があります。
もちろん、冷静な時には、許されないことは十分承知しています。頭では分かっていることを見えなくするから、怒りの感情は恐ろしいですね。
しかし、その感情もすぐ鎮静化するのですから、それをよく知って待ちなさい、決して身を誤まりなさるなよ、と教えられているのです。