今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

松明

(写真:飛行機ぐも一直線 その2)

《ある時、千葉先生は》

江戸末期の剣豪、千葉周作が、ある時門弟たちを連れて小舟で海釣りに出掛けました。
その日は、思わぬ釣果が上がり、夢中になって釣っている内に、いつの間にか日が傾いていました。

これは、たいへん、日が完全に落ちるまでに陸に帰らなければならないと、急いで帰り支度を始めましたが、釣りに夢中になってかなり沖まで来ていたので、途中で完全に日は落ちて真っ暗がりになってしまいました。
慌てて松明に火をつけ、周りを照らすのですが、見渡す限り海と波ばかりで、陸の方向はさっぱり知れません。
そうこうしている間に、遠く沖まで流されたら、もう帰ることができなくなります。
そこで、ますます、必死になって松明で照らすのですが、虚しく時間ばかりが経っていきます。

《老漁夫の教え》

やがて、唯一頼みにしていた松明が燃え尽き、周りはどっぷりと闇に沈んでしまいます。
ああ、これまでか、一同が絶望しかかった時、暗闇の向こうに白々と陸の輪郭が浮かび上がったのです。
それ、あの陸を目指すのじゃ。
一同、歓喜して陸に向って舟を漕ぎ、九死に一生を得ることができました。

後日、千葉周作は知り合いの漁師にこのことを告げると、漁師は笑ってこう言いました。
「これは、千葉先生らしからぬこと。松明は近くを照らすものです。遠くを見る時には却って松明の光が邪魔になります。そんな時、わしらは松明の火を消すのですよ。」

感銘を受けた千葉周作は、この話をよく門人にも語っていたと言います。

《遠い先を見通すには》

さながら、松明とは身の回りの情報のこと、陸とは、遠い未来、ビジョン、あるいは本質と言えるでしょう。

今、身の回りには情報があふれています。しかも、2020年とか、2030年とか、近未来にフォーカスした情報ばかりが目立ちます。

例えば、2030年には、今ある仕事の半分はなくなるとか、今ある地方自治体の何割かは消滅するとか。
何百万台と言う規模で、自動運転車が公道を走るようになるとか。
それに関連して、ロボット、ドローン、ビッグデータ、人工知能、そして、身の回りのもの全てがインターネットにつながるiot等の情報が頻繁に新聞に登場するようになりました。

消費者としての未来は明るい反面、事業者としての未来は不透明で不安ばかりが募ります。
確かに、研究開発の体力のある大手ならば、国の成長戦略に乗っかって無理やりにでもビジネスを動かすことはできるでしょう。
しかし、あまり試行錯誤を許されない圧倒的大多数の中小企業の場合は、下手に情報に踊らされて間違った投資をすればやり直しが効きません。
そのため、必死になって今後10年、20年と自社が生き残る為の情報を掻き集めます。

しかし、その情報が遠くを照らす燈台の光なら良いのですが、時に手もとしか照らさない松明だったりします。
例えば、クラウドという事が盛んに言われるようになり、電気系の会社が一斉にデータセンターの建設に巨額を投じました。しかし、昨今の状況を見ると世界企業数社のサービスがシェアのほとんどを奪う勢いです。
業界では、データセンタービジネスの未来を憂慮する声が頻繁に聞かれます。

結局、国やマスコミが頻繁に騒ぎたてる情報は、つまるところ大手目線であり、規模があって初めて成立するビジネスです。
ですから、今新聞を賑わせているのは、私たちにとって、遠くを見る目を眩ませる松明かも知れません。

かの「機動戦士ガンダム」の監督で有名な富野由悠季氏は、今アニメーターを目指す人に「アニメや漫画ではなく、もっと映画を見たり本を読みなさい」と勧めています。目の前の完成された作品の真似ではなく、自分の世界観で作品を作って欲しいと願っているからでしょう。

同じように私たち事業者も、目の前の松明=目先の情報や成功体験から距離を置いて、本当に自分はどうなりたいのか、そして自分の本当の価値は何なのかと言うビジョンを遠望することが大切だと思います。