今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

ノー・イズ・ゲームオーバー

(写真:白頭鷲)

《自分を信じない、人を信じる》

人間は主観を通してしか世界を見られない生き物です。それは、まるで色眼鏡をかけて世の中を見ているようなものです。
そして、その色眼鏡で、安易に世の中に色をつけてひとり悦に入っています。

例えば、初めてのあった人をも、「この人はすごい人だ。」あるいは、「こいつはツマラン奴だ。」と簡単に仕分けようとします。
特に、一度否定的に見たり、下に見たりすると、相手に対する興味が失われて、相手の良いところを学ぼうと言う気持ちも、得意なことで助けて貰おうと言う心も起こらなくなります。

スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫氏に、こんな名言があります。
「自分を信じない、人を信じる」
自分を信じない、とは、自分の狭い常識や、世界観にとらわれないと言うこと。
人を信じる、とは、相手の可能性を信じると言うこと。

プロデューサーとして鈴木さんほどの実績がある人が「自分を信じない」という信条を貫くのです。
私たちは、非常にその言葉に惹かれます。

《自分の考えにとらわれない》

あくまで私の想像ですが、鈴木さんは実績があるからこそ、敢えて自分を戒めているのだと思います。

プロデューサーには、自分ひとりでする仕事は殆んどありません。
監督、美術、音楽担当、脚本家、声優、等等。
優れた異能のスタッフたちをまとめて、その能力を最大限活かし、一つの作品を作り上げて、そして世の中に出す仕事です。
その鈴木さんが、自分の実績や、成功パターンに囚われて、それを押し付けていたら、今日のスタジオジブリの成功はなかったでしょう。

例えば、「風の谷のナウシカ」と「となりのトトロ」では、アニメの世界観も、音楽の雰囲気もガラッと違います。スタジオジブリの凄さは、作品毎に、その世界観をガラッと変えてくるところです。
きっとこれは、宮崎駿氏や高畑勲氏のような監督や、久石讓氏のような音楽担当者の物作りに対するモチベーションを大切にしているからでしょう。

本来なら、いつも興行収入が気にかかるプロデューサーは、どうしても過去の成功事例を踏襲したくなるものです。
これで上手く行ったんだから、3度、4度は無理でも、2番煎じくらいはいけるんじゃないか。
となりのトトロ2」だったら、皆んな見に来るのではないか。
「妖怪ウォッチ」のような人気シリーズを作ることができれば、もっと経営は楽になるだろう。
そう思えて当然です。

しかし、私たちのスタジオジブリへの思いは、単なるアニメ制作会社とは全く別物です。そんな文化を宮崎、高畑両氏が守ってきたのでしょうね。
そして、ひょっとしたら、経営を預かる鈴木さんは、どうしても二人の考えが理解できず、一度ならずぶつかったかも知れません。
その経験の中で、自分の思いに囚われてはならない、人の思いを大切にしなければならないという自戒が生まれたと想像するのですが、いかがでしょうか。

《ノーと言ったら、そこで終わり》

おそらく若手のスタッフへの対し方も同じだと思われます。
一度、若手スタッフと打ち合わせをしている鈴木さんをテレビで見たことがありますが、経験の浅い人たちにもにこやかに接し自由に喋らせていました。

私たちは、経験の浅い人の発言に対しては、ついつい否定モードから入るものです。
「お前みたいな若僧の考えそうなことは、こっちは先刻承知しているんだよ。」のプライドがそうさせるのでしょう。
確かに、不慣れな人の意見は未熟だし、笑ってしまうようなことも言います。でも、全てがそうではなく、たまにキラッと光ることも言います。
あの「たれパンダ」にしても、若いOLさんの考案したキャラを会社が採用して大ヒットしているのです。

もし、私たちが実績や経験を振りかざして、若い人の新しい意見をまるで否定したら、自分自身古い考えに凝り固まって、何時の間にやら世の中からズレてしまっても分からないことになります。

ですから、むやみな「ノー」は危険です。
例えば、自分の気に入らない、また自分から見れば未熟千万な人がいても、本当にそうなのか、おかしいのは自分の方じゃないか。活かすべき点はないかと、よく目を凝らしたいと思います。

鈴木敏夫氏の「自分を信じない、人を信じる」は、私にとってもとても大切な自戒なのです。