今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

守破離

(写真:翁木の黄昏)

《厨房の妖精》

子供の頃に読んだ話なので、正確な題名は覚えていません。
「不思議な舌」だったか、「不思議なレストラン」だったかも知れません。

かっては美味しいと評判で大繁盛したレストランと、その後継ぎ息子。しかし、残念ながら、全くの味オンチで、オムライスを作らせても、ステーキを焼かせても、焦げ焦げのフニャフニャで、すっかり客足が遠のいています。

これでは、店を閉めるしかないと落ち込む息子の前に、老人の小人が現れます。
「ワシはこのレストランに住みついている妖精じゃ。」
そして、驚く息子に妖精は続けます。
「ワシは、お前にオヤジさんの遺言を伝えるために現れたのじゃ。
実は、このレストランの地下には、オヤジさんが一生の間研究したいろんなジャムやレシピがたくさん保管されておる。そして、オヤジさんは、それをお前に引き継いで欲しいと願っておったのじゃ。」

「そんなの無理だ。僕は生来の味オンチで、レシピを貰っても、とてもお父さんのようにはできないよ。」
「それなら心配は要らぬ。ワシがお前の舌に魔法をかけてやろう。そして、その舌で味わったら、どんな料理でも、材料も、分量も全てたちどころに分かってしまうのじゃ。」
「それは本当なのか?」
「ああ、本当じゃ。ただ、約束するのだぞ。まずその舌でオヤジさんのレシピを勉強するのじゃ。」
「分かった。約束するよ。」

かくして、魔法の舌を手に入れた息子でしたが、彼は妖精との約束を破って父親のレシピなど見向きもしません。代わりに、周りの美味しいと評判の店を食べ歩いて、そこで使っている材料や分量を魔法の舌を使って調べて回りました。

やがて、息子の店は昔のように大評判となります。それは、いろんな店の評判の料理をコピーして出しているのですから当然です。
一方、妖精は約束を破った息子に腹を立てながら、1日も早く父親のレシピを勉強をするように促します。
それに対して、息子はずっと気のない返事を繰り返していました。

そんな息子のところに、美味しいと評判のレストランの噂が聞こえてきました。そして、息子はそのレストランの味も盗もうとさっそく出かけます。
そのレストランの評判の料理はサンドイッチでした。しかし、見れば、何の変わったところのない普通のジャムサンドです。
少し肩透かしをくらいながらも、一口食べた息子は、その味の深さと複雑さに驚きます。こんなもの食べたことがない。
さっそく息子は自分のレストランに帰って、調べて来た材料と分量で同じものを作ってみようとします。
「砂糖に、バターに、シナモンに・・・」
しかし、何回、いや何十回やっても、あの不思議なジャムサンドの味を出すことはできませんでした。

何日も試した末、ついに息子は意を決して、あの不思議なサンドイッチの店を訪れます。そして、店主に対して深々と頭を下げて頼み込みました。
「ご主人、実は私はここの店のジャムサンドを一口食べて、あまりの味の素晴らしさにビックリしました。そして、なんとか自分でも同じ味を作ろうとやってみたのですが、どうしても、あの味を出すことができません。
それで、無理を承知のお願いなのですが、私にもあのジャムサンドの作り方を教えてはいただけないでしょうか。」
しかし、意外にも店主はその無理な願いに対して、ニッコリ笑って
「いいですとも。あなたにならお教えしましょう。でも、しっかり学んでいただかなくてはなりませんよ。」
「はい、有難うございます。お約束します。どうか教えてください。」
「よろいしい。では、良いと言うまで目を閉じてください。」
そして、息子は素直に店主の言葉に従って目を閉じました。
「はい、開いて。」
その店主の声で目を開けると、不思議なことに、あの店は消え失せ、息子は自分のレストランの地下室に立っていました。
側には、父親の作ったジャムのビンがあります。そして、息子がそのジャムを一口舐めると、あの不思議なジャムサンドの味がしました。
「ああ、僕はお父さんの作ったジャムを食べていたのか。」
すると、あの妖精が現れて、こう言ったのです。
「これでオヤジさんの偉さが分かったじゃろう。だから、今度こそ、約束通りオヤジさんのレシピを勉強するのじゃぞ。」
「はい、分かりました。」

そうして、その日から、息子はレストランの地下で父親のレシピを学び始めたのです。

守破離

昔読んだ話なので、正確には覚えていませんが、だいたいこんな内容だったと思います。
これは、題の「守破離」について選んだ話です。

守破離」とは、古来日本の武道、茶道、華道、舞踊で言われてきた言葉です。
「守」は、まず師匠から教わった型を忠実に守る。「破」は、その型が身についたところで、自分なりの型を工夫をする。「離」は、最後、その型から離れて自在になると言うことです。

しかし、「破」や「離」は、「守」の土台があって始めてできることです。最初から自分の思いを優先して、真面目に師匠の型を学ばなければ「破」も「離」もあり得ないのです。
これを前段の話に当てはめると、「守」とは、息子にとって父親のレシピです。ところが息子は、その父親のレシピを嫌って、他の店の味のばかりを真似しました。
つまり「守」を飛ばして、「離」をできた気になっていたのです。しかし、実際はどうだったでしょう。
息子は、魔法の舌をもってしても、父親の作ったジャムの奥深さには到底及ばなかったのです。
つまり、「破」どころか、「離」どころか、全く始まっていなかったと言うことですね。

《知らぬ道 知ったふりして迷うより》

親や先輩が長い間かかって作り上げたやり方もそうですし、会社で長い間守られているルールもそうです。それは長い時間かかって磨かれてきたもので、その間に徹底的に無駄をそぎ落とされて洗練されています。
しかし、むしろそのシンプルさが若い人にはつまらなく思えるのかも知れません。

特に若いうちは自惚れ易く、せっかくの財産を軽んじて、自儘なやり方を通した結果、結局失敗をして臍をかむ。よく聞く話であります。
この「守」は、「破」や「離」に至るための欠かせないプロセスです。
そして、特に自分が経験がなく、初心の道は先輩の言うことによく耳を傾けて、「守」に徹することを心がけたいと思います。

「知らぬ道 知ったふりして迷うより いっそ聞いていくのが 早道」