成長とは、考え方×情熱×能力#163
王子の話
「お、お願いします。電源を、切って、ください。」
KAYOKOー1号の思いもしなかった反応に歌陽子は怯えて、そう叫んだ。
ざわざわざわ、と観客席に波紋が広がった。
「なんじゃ、どうした?さっきまで、小難しい話をしておったかと思うと、今度は急に叫び出して。あの、娘気がおかしいんじゃないか?」
「ロボットが暴走しているらしいわ。」
「やれやれ、暴走はさっきのロボットでこりごりじゃわい。また、暴れて客席に飛び込んだりせんじゃろうな?」
「そう言うのとは、少し違うみたい。あの、ロボット、ひとりでにしゃべっているのよ。」
「さては、人生だの、なんだの、小難しい話ばかりしておるうちに、ロボットも知恵がついたんじゃろう。」
そんな観客たちの喧騒は気にも止めず、KAYOKOー1号はしゃべり続けた。
「かよこさん、どうかこわがらないでください。わたしは、あなたのねがいで、このよにうまれました。」
「なに?」
歌陽子は、こわごわと返事を返した。
「わたしは、あなたのぶんしんです。だから、あなたの、ねがうようにだけうごいて、しゃべります。」
「私の願い?」
「そうです。わたしは、あなたのねがいをかなえるために、うごいているのです。そして、あなたが、しあわせになれるような、おはなしをします。」
「さっき言いかけた話もそう?」
「もちろんです。」
「ど・・、どんな話なの?」
歌陽子は、彼女の分身と言うロボットに問いかけた。
「はい、おはなしします。それは、いまのあなたに、よくにた、ひとのはなしです。」
「私・・・?」
「それは、あるおうじの、はなしです。そのひとは、うまれながらにして、なんでももっていました。みんなをしたがえるちからも、なんでもかえるおかねも、ひとがこころから、そんけいするちえも、そしてなによりもうつくしいおうじでした。」
「何よ、ぜんぜん違うじゃない。」
「そうですか?わたしには、あなたはとてもかわいくおもえます。それに、おかねとちからをもったいえで、おじょうさまといわれているでしょう。」
「うつくしい・・・じゃないけどね。」
「それは、あと5ねんごに、きたいです。」
「あ・・・、ありがと。続けて。」
「そのおうじさまは、とてもめぐまれていましたが、いつのまにか、こころになやみをかかえるようになりました。」
「どんな?」
「いまが、とてもしあわせでしたが、それがいつまでもつづかないことに、きがついてしまったのです。」
(#164に続く)