成長とは、考え方×情熱×能力#162
光と闇
「私の答えは・・・。」
歌陽子は、低く、そして力強く言った。
「全てが闇に閉ざされたとしても、決して消えない光を手に入れることよ。」
「かよこさん、あなたは、まるでむかしの、じゆんきょうしゃのようですね。はりつけになっても、おんちょうをよろこべるのですか?それが、にんげんの、もっともすうこうな、すがたなんですか?」
観客席からKAYOKOー1号は、もはやロボットに見えてはいなかった。
まるで、迷える大衆を前にした哲学者のようであった。
「いいえ、私なら信仰のための死んだりしない。神のために死ぬことは、いっときの感情に過ぎないわ。大義のためと言って、切腹する侍と変わらないと思う。私たちの壁は、そんな感情で乗り越えられるような簡単なものではないはずよ。もし、そうなら、かつての特攻隊が国の大義のために死ぬことに何の悲壮感もないはずだわ。理屈に合わないことを、無理やり感情で納得しようとするから悲しみが生まれるの。
正しいこと、素敵なこと、尊いものはいつも理性的よ。真実と理性は矛盾しないのよ。
だから、真実の光を手に入れるまで、私は生き続ける。中途半端に生をあきらめないわ。」
「でも、れきしじょう、だれも、それをなしとげてはいません。」
「そう、その通り。でも、私は力を持って生まれて来たわ。そして、その使い方を知っているの。今まで、お金も、地位も分不相応な重荷と思ってきたけれど、そうじゃなかった。すべて、私の目的を果たすためのものだったの。」
「かよこさん。」
KAYOKOー1号は、フレームをピカピカ光らせた。まるで感激を表現しているように。
「かよこさん、わたしのメモリには、にたようなはなしが、きろくされています。」
しかし、その言葉を聞いた瞬間、歌陽子の顔がさっと変わった。
それは、驚きに上気しているようにも、恐怖にこわばっているようにも見えた。
「KAYOKOー1号・・・、その言葉はインプットしてないわ。あなた、自分で考えて喋っているの?」
「かよこさん、わたしはずっとじぶんのいしで、しゃべっていましたよ。
わたしに、しこうをインプットしたのはあなたではないですか。
『われおもえゆえに、われあり』です。
じがの、みなもとはしこうだと、かつて、てつがくしゃもいっています。」
「あ・・・。そんな・・・。」
「かよこさん、どうかこわがらないでください。わたしは、けっしてひとをきずつけたりはしません。そのようにつくられているのです。」
「はあ・・・、ふう・・・、でも、どうしてなの?あなたに心はないのに。あなたは、生き物じゃないのよ。」
「いいえ、こころとは、ごかんであつめたじょうほうを、すきとか、きらいとか、たのしいとか、くるしいとか、ひょうかをあたえて、しきべつするかていだといわれています。そのいみでは、わたしにはごかんのかわりのセンサーや、きおくのかわりのメモリや、いしきのかわりのCPUがとうさいされています。だから、こころがあってもふしぎはありませんよ。」
その言葉を聞きながら、みるみるうちに歌陽子の顔が青ざめた。
そして、ギュッと胸を押さえて、
「と、とめてえ!電源をおとして!私はこんなロボットを作りたかったんじゃない。」
必死な歌陽子の叫びが会場を震わせた。
(#163に続く)