今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#161

(写真:イブニング・クレーン)

私の答え

「ある哲学者が『この世で最善のことは何か?』と問われて、『それは、もう手遅れです』と答えたんですって。相手はびっくりして、『それは何故か?』と聞きかえしたの。それに哲学者は、『それは生まれないことだからです』と答えたそうよ。
相手は続けて、『ならば、次に良いことは何か?』と聞いたの。その答えは、『早く死ぬことです』だったんですって。」

「でも、それではじんるいは、しにたえてしまいますね。」

「そうね。『人間は考える葦である』と言った人がいるわ。自分たちの人生を深く見つめる知恵は人間しか持たないものね。人間に一番近いゴリラやチンパンジーだって人生に悩んだりしない。でも、深く見つめた結果が、『早く死んだ方が良い』ではあまりにも悲しいわ。」

「そうですね。しかし、たのしいことと、くるしいことと、じんせいのさいごにそうけっさんをして、たのしいことのほうがおおかったというひとはいるでしょうか?」

「でも、『ワット・ア・ワンダフル・ワールド』という歌もあるわ。人生に素晴らしい意味を見出そうと人もいる。アウシュビッツに囚われた少女だって、決して人生を諦めなかった。」

「かよこさん、あなたは、アウシュビッツでもさいごまでいきのこるタイプですね。
そのひとたちは、じんせいのかがやいていたころをしっていた。だから、またそのかがやきをとりもどすことが、いきがいでした。」

「こころに光があれば人間は生きていけるわ。」

「でも、うまれたそのしゅんかんから、きげんつきのタイマーがカッチカッチとなっています。にんげんは、そのタイマーののこりじかんをいしきしながら、まいにち、いきていかなくてはならないのですよ。それは、とてもつらいことではないですか。つまり、ながいきをすることは、そのくるしみにながいあいだ、さらされることなんです。だから、わたしは、てばなしで、ながいきをよろこぶことはしません。」

「前にお父様から聞いたんだけど、子供のころに、あと20年ちょっとで地球が滅びると言い出した人があったんですって。しかも、テレビや雑誌まで一緒になって大騒ぎして・・・だから、お父様の友達はみんな人生を悲観したんですって。あと20年しか生きられないって。そうしたら、勉強して出世することも、結婚して子供を作ることも意味がなくなるものね。
でも、20年経っても何も起きなかった。当時大騒ぎした人たちは、もう影も形もないわ。私が生まれる前の話よ。
だけど、お父様は気がついたそうよ。あのとき、死ななくても結局同じだったって。地球が滅亡しなくても、あと何十年か経てば人生は終わる。その時は、地球が滅びなくても、自分が一人で地球から去るから同じなんだって。」

「でも、かよこさんのおとうさまは、りっぱにおしごとをされています。」

「それがお父様の結論だったみたい。自分が消え去る日が来ても、決して消えない足跡を社会に残したいんですって。
でも、私は少し違う。」

「では、かよこさん、あなたのこたえはなんですか?」

「私の答えは・・・。」

歌陽子はそこで一旦言葉を切って、大衆に語りかける人のように、観客席を見回した。

(#162に続く)