成長とは、考え方×情熱×能力#159
私たちのツバサ
歌陽子は、ゆっくりと、しかし力強く語り始めた。
「皆さん、私は東大寺歌陽子と言います。今日の催し物を開いた三葉ロボテクの社員であり、三葉ロボテクを含む東大寺グループ代表の東大寺克徳の娘でもあります。」
「へえ」
「そんないいところのお嬢さんかい。」
観客席からは、歌陽子に感嘆の声が漏れた。
「私は、東大寺家の令嬢として、子供の頃から恵まれた、相応の扱いを受けてきました。
そして、両親は私の境遇に相応しい、安心で恵まれた未来を用意してくれました。でも、気がついたのは、このまま決められた役割を演じるだけで一生終わっていいのか、その日まで時間を消費するだけの人生で良いのかと言うことです。
人の書いたシナリオじゃない、私の決めた人生を生きてみたいと、家族に反抗し、そして私は今ここにいます。決して、満足に自分の足で立っているとは言えないけれど、つらさも苦しさも全部自分で決めて、自分で背負って生きています。
私は・・・、周りに期待された生き方はしていないけれど、そして誰から期待されなくても、誰から求められなくても、私は私の人生を生きたいと願います。
そして、今日皆さんの前で晴れがましく発表の機会をいただきました。これは小さいけれど、私のツバサです。この小さいツバサに乗って、私はこれからも自信を持って飛んで行けます。
皆さんも・・・。」
そう言って歌陽子は、会場を見回した。
「誰かのための自分ではなく、自分のための自分を生きてください。人の作ってくれた居場所ではなく、みなさんの心の中の居場所を大切にして下さい。
なぜなら、皆さんの人生は、皆さんが主人公です。代わりは効きません。嬉しいのも、悲しいのも、腹が立つのも、おかしいのも、苦しいのだって皆さん自身のことです。
そして、私は皆さんが自信を持って生きていけるためのツバサがつくりたい。それが、このロボットなんです。」
歌陽子が喋っている間中、KAYOKOー1号は、ずっと首を傾げて話を聞いている格好をしていた。
そして、歌陽子が顔を正面に向けて笑いかけると、KAYOKOー1号も目のフレームを点滅して応答する。
「まあ、可愛らしいロボットだこと。」
観客席席の婦人が言えば、周りもそれにつられて、「あはは」「おほほ」と笑い始める。
歌陽子は箸を動かして先ほどの動作の続きをした。
ロボットは、歌陽子に手を添えて、焼き魚からきれいに一かたまりの身を切り出した。そして、その一切れを歌陽子は口に含んで、その深い滋味を堪能した。
「かよこさん、おいしいですか?」
「うん、とっても美味しくてよ。」
「それは、うれしいです。」
そう言うと、ロボットはまたフレームを今度はピンクに点滅する。
「ほう、ロボットが喜んどる。」
無機質なロボットの顔に感情を認めて、老人たちは楽しんでいた。
そうして、歌陽子はロボットに呼びかけた。
「ねえ、KAYOKOー1号、少し話し相手になってくださる?」
(#160に続く)