成長とは、考え方×情熱×能力#152
バカモン親子
パァン。
鋭い音が周りに響き、頬を強く叩かれた歌陽子は顔を覆ってその場にうずくまった。吹き飛ばされたメガネはヒビが入って近くに転がっている。
そして、その光景に、その場に居合わせた全員の背中の毛がそそけ立った。
「お、おい!」
「あんた。そりゃ、いけねえ。」
「やめたまえ、相手は怪我人だじゃぞ。」
「や、やめなさい。殺す気ですか。」
その声を背中で受け止めた克徳は静かに、うずくまる歌陽子に語りかけた。
「さあ、立ちなさい。」
だが、歌陽子は決して顔を上げようとしなかった。
「さあ!」
なおも強く克徳は促す。
しかし、歌陽子はいやいやをするように、顔を覆ったままで左右に頭を振る。
「歌陽子・・・。なぜ、お前は自分が殴られたか分かっているのか?」
「・・・。」
「これだけ多くの皆さんに迷惑をかけておりながら、まだ懲りないのか?もし、このまま続けて、お前の身に何かあればどれだけの人が辛い思いをすると思っている。せっかくここに集まってくださった皆さんに、どれだけ後味の悪い思いをさせると言うのだ。
それに、お前の言っているのは、全部お前自身の都合だぞ。私に対する意地もあるだろう。これまでにかけた労力を取り返したいと言う欲もあるだろう。仲間への手前や、宙に対する対抗心もあるだろう。
だがそれら一切、ここに集まっている皆さんへの責任を思えば、どれも軽い。
そんな公私の判断もつかないヤツがどうして、これから東大寺家を支えていけると言うのだ。」
「・・・。」
その時、克徳の後ろから小さく呟くような声がした。
「父さん、もういいだろ?姉ちゃんばかりに背負わせるなよ。」
「宙か・・・。」
克徳は振り返って言った。
「全くお前たち姉弟は、どうして揃いも揃って出来が悪いのだ。」
「父さん、やらせてやってよ。」
「お前まで、何を言い出すのだ。」
「このまま終わったら、俺も辛いよ。」
「では、お前が歌陽子の代わりを務めると言うのか?ならば、許可しないでもないが。」
その時、宙はキッと父親を睨み返した。
「これは、姉ちゃんのコンテストだよ。代わりなんかいるもんか!」
「ならば、どうするつもりなんだ。この状態の歌陽子にプレゼンターの重責が務まるのか?」
「それは・・・。」
一瞬、口ごもった宙。しかし、再び強い口調で言い返す。
「俺が・・・、俺が支える。」
克徳は宙の顔を見直した。
なりは小さく幼いが、もう男の顔をしている。歌陽子も、覆っていた両手から顔を上げて、宙の顔を見た。
「ねえ、いいだろ?」
その言葉に、思わず克徳は教授の顔を見た。
そして、苦笑いしながら教授も、
「ふうむ、困ったもんじゃ。あと、一本痛み止めを追加するから、30分だけじゃぞ。」
その時、克徳の口からは、彼自身意外な言葉が飛び出した。
「先生・・・、感謝します!」
「はあ。全く、この親にしてこの子ありじゃ。バカモン親子だよ、あんたたちは。」
(#153に続く)