成長とは、考え方×情熱×能力#149
弟
「ソラ・・・ですか?」
オリヴァーは、東大寺克典に問い直した。
「ああ。今回のプログラミングの一部を宙にも任せていたんだろ?」
「はい、確かにその通りですが・・・。」
「やはりか。」
「やはり・・・。」
歌陽子は、父親克典のつぶやきを繰り返した。
「あの、日登美さん。」
歌陽子は側にいる日登美に呼びかけた。
「何ですか?」
「あの・・・確か日登美さん・・・、うっ。」
「こらっ、嬢ちゃん、静かにしてろ。」
前田町が歌陽子を心配して声をかける。
「いえ、大事なこと・・・うっ、なんです。あの、 確か、宙のプログラミングには、うっ、危険なところがあるって言ってましたよね。」
「あくまで、一般論です。腕は立つが、業務系の怖さを知らないプログラマーは、細かいところの作り込みが甘くなります。自分の腕を過信するんでしょうね。」
「おそらくそんなところだろう。」
克典が日登美の話を引き取った。
「オリヴァーくん、若輩者にプログラミングを任せていながら、チェックを怠った。これは君の不手際だよ。」
「そ、それは・・・。」
「よく覚えて置きたまえ。これでは、日本のものづくりには通用しない。」
「イエス、キープマインド、デイープリー。」
「さ、分かったら、宙を呼んできてくれないか。宙自身も今回のことはこたえているはずだ。」
「イエス、サー。」
やがて、オリヴァーは宙を連れて戻った。
宙からは、コンテスト開始前の憎々しげな様子は消え、しょんぼりと肩を落としていた。
克典は、無言のまま宙の肩に手をかけ、そのまま抱き寄せた。
そして、静かに宙に語り始めた。
「宙、お前。姉さんに何か言うことはないか?」
「お、俺は別に。」
「よく見るんだ。お姉さんが命がけでお前のロボットを止めてくれたんだ。そうでなかったら、大惨事になったかも知れないんだぞ。だけどな、それで歌陽子は大怪我をした。」
「怪我って・・・どこも血なんか出てないじゃないか。」
宙は少し強がって言った。
「身体の中が傷ついているんだ。だが、歌陽子は、お前の大好きなお姉さんだったじゃないか。その大事なお姉さんが傷ついてなんとも思わないのか?」
「い、いい気味だ!」
その一言に歌陽子が苦しげに顔をしかめた。
「そうか・・・、だが、ならば、何故歌陽子をちゃんと見ない。本当は辛くて見られないんじゃないのか。お姉さんに嫌われるのを一番怖がっているのがお前じゃないのか?」
「わ・・・訳ないよ・・・。こんなツマラナイ姉ちゃんなんか、嫌われようが、死んでいなくなろうが、ゼエンゼン、構うもんか!」
「ソラ、やめないか!それじゃ、あまりにも、カヨコがカワイソウダ。」
堪り兼ねてオリヴァーが口を開いた。
それを克典が片手で制する。頑なな宙の心に変化の兆しを見たのか、後は姉弟でなんとかさせようと思っているようだった。
(#150に続く)