今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#148

(写真:田園の黄金雲 その4)

痛み

「おい、カヨ、大丈夫か?」

気がつけば、頭の上から野田平の声がする。
会場の天井のライトが見える。
視界には、前田町、日登美の顔。
あと、心配そうな野田平の顔まで見える。
そして、すぐ目の前の大きな肩は誰だろう。なんだか、懐かしい匂いがする。

「み、みなさん、申し訳ありません。」

そう言って、歌陽子は上体を起こそうとした。
その途端、腹部を切り裂かれるような鋭い痛みが襲った。

「あ、アグッ。」

そして、また倒れこむ歌陽子をがっしりした手が支えた。

「こらっ、無茶をするんじゃない。」

歌陽子の上に屈みこんで、彼女の腹部を調べていたのは父親の東大寺克典であった。
シャツの下をはだけて、みぞおちの辺りを露わにしている。

「あ、お父様、その・・・。」

痛さと、恥ずかしさで言葉が詰まってしまう。

「少し赤くなってはいるが、切れてはいないようだ。だが、その痛がり方からすると、内臓が傷ついているかも知れん。今、大学病院に救命ヘリを要請した。あと、20分くらいで到着するそうだ。それまで、とにかくそのままでじっとしているんだ。」

「で、でも・・・。」

「嬢ちゃん、あまり喋っちゃあいけねえ。」

前田町も眉間にしわを寄せ、歌陽子を案じて声をかけた。

「で、でも、コンテストは・・・。まだ、私たちの番が済んで・・・いません。」

気丈に喋りながらも、時々鋭く差し込むのか、歌陽子の顔に脂汗が浮かんでいた。

「バカもの、何を言っているんだ、お前は。
中止にするしかないだろう。せっかく集まってくださった皆さんには申し訳ないが。
今、付き添いに安希子さんを呼んでいるから、一緒にヘリで病院に行くんだ。」

そこに、前田町が口を挟んだ。

「じゃあ、あんたはどうするんでえ?」

「私は主催者として、この事態の収拾をしなければならない。あなた方には、申し訳ないが、せっかくのロボットはまたの機会にして欲しい。」

「しゃあねえなあ。カヨがこんなんじゃ、仕方ねえだろうよ。」

野田平が少々落胆気味に言った。

「う・・・。」

声を殺して歌陽子が泣き始めた。

「こら、歌陽子、やめないか。誰のせいでこうなったと思っているんだ。」

「で、でも・・・。」

歌陽子は涙でメガネを曇らせながら言う。
それを横目で見ながら、克典は、

「それより、ロボットを装着していたご婦人は無事なのか?」

側にいた三葉ロボテクの社員の一人に尋ねた。

「は、はい。すぐに確認して参ります。」

社員はすぐ近くにいたオリヴァーを連れて帰った。

「カツノリ、ソーリーです。」

「それより、あの婦人は問題ないのか?」

「はい、カヨコが守ってくれました。」

「それは良かった。ケガ人が身内だけで済んだのは不幸中の幸いだな。」

意外そうにオリヴァーが問い返した。

「ですが、あなたの娘さんでしょ?」

「今は東大寺グループ代表として話をしている。だが、歌陽子と宙の父親として言わせて貰うならば、今回主因はうちの子供たちだとしても、大人の君がついていながら、何と言う失態なのだ。」

「全く、言い訳できません。ソーリーです。カツノリ。」

「もちろん、それを認めた私の責任もある。だから、君ばかりを責めはしないが、君の会社との協業は当面見合わせたい。」

「仕方ありません。分かりました。」

恐縮そうに答えるオリヴァー。

そして、少しため息をついて克典は続けた。

「あと、宙をここに呼んでくれないか。少し話をしたい。」

(#149に続く)