成長とは、考え方×情熱×能力#147
盾
「あ、あなた、危ない!どいて!そこどいて!」
悲鳴のような声で訴える梨田夫人。
だが、歌陽子はギリリと歯を食いしばり、腰を落として夫人を受け止める体制を取った。
その小柄でか細い身体をクッションにして、まっすぐ突進してくるロボットを受け止める盾になるつもりであった。
激しく回転するアクチュエーターの作動音と、ロボットが振り回す腕や足の風圧が肌に直に感じられた刹那、歌陽子は肉薄するロボットに自ら組みついて行った。
そして、全身の肉をクッション代わりにして、ロボットの動きを吸収する・・・はずだった。
しかし、
ロボットの力は想定以上に強く、組み付いたはずの歌陽子は振り払われ、体制を崩したその腹部にロボットの足が鋭く突き刺さった。
「グ・・・、グアアッ!」
刺し抜かれるような痛みに耐えかね、歌陽子の口から苦悶の声が漏れた。
そして、振り払われた勢いで空のパイプ椅子に向かって投げ飛ばされた。
ガシャン!
けたたましい音を立ててパイプ椅子に激しくぶつかり、そのまま歌陽子は下に崩れ落ちた。
「あああ!」
梨田夫人の口から悲痛な声が発せられ、それと同時に駆けつけた男たちの腕でロボットは羽交い締めにされ、押さえつけられた。
敵わぬまでも、必死に組み付いた歌陽子の肉体の盾が、一瞬ロボットの動きを止め、男たちに取り付く隙を与えたのだった。
「マダム、マダム・・・、落ち着いて。さ、力を抜いてください。」
優しく梨田夫人に語りかけたのは、オリヴァー・チャンだった。
「さ、そうです。ゆっくり深呼吸をして。フー、スー、はい、吐いて、ハー。」
心に染みるオリヴァーの低音に、夫人の力がフッと抜けた。それと、同時に今まで激しく動いていたロボットのモーターが急に鳴りを潜めた。
そして、オリヴァーはメインスイッチをカットすると、
「さ、マダム。大丈夫ですか?もう、心配いりません。怖い思いをさせて申し訳ありませんでした。」と、語りかけた。
男たちもホウと一息ついてロボットから手を離した。
会場は、この一瞬の騒ぎですっかり浮き足立ってしまった。東大寺克典と、三葉ロボテク社長の牧野もいつの間にか自分たちの席を空けていた。
オリヴァーはロボットの鎧を一つ一つ解除していった。その間、梨田夫人は声を立てずに泣き続けていた。
「私・・・、私なんてことを。みんな、私のせいで台無しだわ。」
「いえ、マダム。申し訳ないのは私たちの方です。どこか・・・痛いところはありませんか?」
オリヴァーの優しい気遣いに、はらはらと涙を流しながらも、梨田夫人は、
「え、ええ、私は大丈夫。あのお嬢さんが守ってくれたから。」
そして、ハッとしたように尋ねた。
「そ、そう。あのお嬢さんはどうしたの。大丈夫だったの?」
(#148に続く)