成長とは、考え方×情熱×能力#143
カヨコとピア
ヘッドセットのスピーカーを通じて宙がオリヴァーに話しかけた。
「オリヴァー、聞いてる?あのばあちゃんって、オリヴァーが連れてきた人?」
「あのばあちゃんって?」
「だから、ねえちゃんがマダムとか言っているばあちゃんだよ。」
「さあ、僕は知らない人だな。」
「じゃあ、僕らに協力してくれるって人、どうなったの?」
「すまない。実は、手違いがあったようだ。だが、プレゼンは予定通りにできるからノープロブレムだろ?」
「それはそうだけど、あのマダムって、なんかねえちゃんと仲が良さそうで気に入らないよ。」
「ソラ、カヨコも悪気がある訳ではないだろうし、構わないだろう。」
「チェッ・・・。」
宙は、不満げに小さく舌打ちをした。
一方、マダム・ビアこと梨田夫人を介助しようと車椅子に近づいた歌陽子に、夫人に付き添っていた介護士が断りを口にした。
「あ、僕らが見てますんで。それに、あまり無茶はさせないで下さい。」
それで歌陽子も少しためらった。しかし、梨田夫人は、
「まあ 、あなた黙ってらっしゃいな。いつも、私が何かしようとするたびに、あれしちゃいけない、これしちゃいけないってうるさいのよ。せっかくこのお嬢さんがお世話してくださるのに、邪魔しないでちょうだいな。」と介護士を叱りつけた。
「もし、ロボットに乗って転倒とかしたらどうするんですか。」
それでも、彼は不服そうに言う。
「あの、私がきちんとお世話しますから。それでもダメですか?」
歌陽子は、半分心配をしながらも、梨田夫人の希望を叶えずにおくのが忍びなかった。
「あなた、本当に責任持てるんですか?」
怪訝そうに言う介護士に、歌陽子は、
「もちろん、もしもはあってはいけませんが、どうしても不安に感じられるならば、私が何者か申し上げます。」
「確か、東大寺さんでしたよね?」
「はい。今日の催しは、私の父の責任で行われています。ですから、もし万一何かあれば、東大寺グループ一丸となって責任を負います。決して御迷惑はおかけしません。」
「まさか、東大寺って・・・。」
介護士の青年は目を白黒させながら言った。
「はい。私の父、東大寺克徳は東大寺グループの代表です。」
「そ、それは失礼しました。」
すっかり恐縮をした青年と、逆に慌てた歌陽子。
「いえ、いえ、そんな大げさに受け取らないで下さい。」
そのやり取りを聞いてか聞かずか、梨田夫人は、歌陽子に、
「じゃ、よろしくね。」と笑いかけた。
その時、
「じゃあ、そろそろ準備して下さい」と言う宙の声。
いつの間にか、ステージから『ロボットハンド』は撤去され、代わりに介護用のロボットが設置されていた。
梨田夫人の呼びかけと、弟の宙の催促の両方に答えるように、歌陽子は、
「はい」としっかりとした返事を返した。
(#144に続く)