成長とは、考え方×情熱×能力#141
新しい未来
「もっとすごいもの見せますよ。」
自信ありげに、宙が言った。
宙がスイッチを押して操縦者の解放を指示すると、マシンはあたかも脱力するようにアクチュエーターの動力を止めた。
そして、宙を拘束していたパーツが左右に分かれて、再び前面にパックリと口を開いた。
そこからスルリと滑り降りた宙は、マシンを装着する前と変わらぬ調子でプレゼンテーションを続けた。
「今、見てもらったのは、すでに建築現場や倉庫やトラック輸送の現場では使われているマシンです。名前を、ロボアームと言います。そして、今回はそれをベースに、身体の自由がきかなくなった人用のマシンを開発しました。それが、今からご紹介する『ARTIFICIAL BODY』です。
皆さん・・・。」
そこで、少し言葉を切って宙は観客席に呼びかけた。
「僕はまだ中学生です。ですから、歳をとって身体が動かなくなることは頭で想像できても、それがどんなにたいへんなことか、実感としては分かりません。
でも、もし病気や怪我でずっとベッドで動けないことになったら、それはとても辛いことだと思います。それでも、若い僕らなら、病気や怪我はいつか治ります。そして、また元のように自由に走ったり飛んだりすることができます。
しかし、歳をとって動かなくなった身体は、もう二度と元どおりにはなりません。
それは、僕たちが病気や怪我をする以上に辛いことです。そして、誰もがそんな辛い未来を抱えています。
でも、僕はそんな未来を変えたいと思いました。身体が動かなくなっても、科学の力で若い頃と同じように自由に動くことができれば、僕たちの未来は大きく変わります。
ここの皆さんも多くは身体が思うようにならず辛い思いをしていると思います。そして、思う存分身体を動かせたらどんなにいいかと思っていませんか。」
宙の問いかけに、会場の何人かは深くうなづき、また何人かは戸惑うように目をしきりとしばたたかせていた。
「とは言え、いくら僕がここで説明をしても、実際にどんなことが可能になるのか、分かって貰うのは無理でしょう。それでは、僕のプレゼンの意味がありません。
ですから、誰か身体が動かせない人に手伝って貰いたいんですけど、どなたかいませんか?」
そこで会場の老人たちは、またお互いの顔を見合わせて、戸惑いの色を露わにした。
三葉ロボテクのベッド型ロボットを試すのも勇気が要った。でも、あれはまだベッドの形をしている。少し慣れは必要だが、馴染みのないものではない。
それ比べて、さっきの実演で宙を飲み込んだメカの塊は、身体の不自由な老人たちにとても恐ろしげに思えた。
「誰か、手伝っくれる人はいませんか?」
宙は再度老人たちに呼びかけた。
しかし、今度は佐山清美の時とは違い、誰一人名乗り出るものはいなかった。
「オリヴァー、オリヴァー。聞いてる?」
「ああ、宙。先ほどのデモンストレーションはネガティヴ・エフェクトだったようだな。」
ヘッドセットのイアホンを通して、宙とオリヴァーが会話をした。
「だけど、心配はいらない。バックアップは考えているよ。」
「バックアップって何?」
「つまり、僕らのプレゼンテーションに、エグザクトリーな人間はもう連れてきてあるんだ。僕がサインを出せば彼女が手をあげることになっている。」
「へえ、そう。じゃあ、もう一回頼んでみるから、それで誰も手を上げなかったらサインを出してよ。」
「オーケー。」
そして、宙は老人たちに再度の呼びかけをした。
「ねえ、皆さん、こんなチャンス滅多にないですよ。本当に希望ないですか?」
会場の反応をゆっくりと確かめながら、宙はしばらく待った。
すると、はからずもサッと手を上げたものがいた。
一人は、先ほどベッド型ロボットのデモンストレーションを希望したマダム・ピアこと、梨田婦人。
そして、もう一人は観客席のハズレに立って宙のプレゼンテーションを見ていた歌陽子であった。
(#142に続く)