成長とは、考え方×情熱×能力#139
宙プロジェクト
「清美さん。」
「あ、かよちゃん。」
ブースの裏手から飛び出してきた佐山清美に歌陽子が声をかけた。
「お疲れ様です。」
「どう?私のプレゼン。少しはプレッシャーを感じた!」
「う〜ん、プレッシャーと言うか、少し気が楽になりました。」
「え〜っ、なんで?結構、私上手だったでしょ。それに、会社のロボットもすごく良く出来てたし。」
「あ、そうですね。もちろんどうしようかとは思っていますよ。だって、清美さん、ものすごくお上手でしたし、皆さん、とても真剣に見ていらしたもの。」
「でしょお。」
「はい。でも、清美さん、急遽代役だったんでしょ?私なんか、ちゃんと練習したのに、それでも物凄く緊張してドキドキしているんですよ。清美さんは、そんな練習もなくてイキナリ本番だし、私だったら、とても心臓が持ちません。それなのに、とっても堂々としてましたもん。」
「あはは、まあ、部長がイアホンに喋る通り、そのまま言えばいいって話だったし、これならできそうかなって思っちゃったんだよね。あんまり、失敗したらどうしようかとか考えなかったかな。だって、失敗したって、私みたいなど素人をイキナリ引っ張りだす部長が悪いんでしょ?」
「ですよね。でも、私なら、後で部長に怒られるのが嫌だから、ヤッパリビクビクしちゃうかな。」
「かよちゃんは、真面目過ぎるんだよ。」
「そうですか?」
「そうだよ。」
「でも、清美さん、すごく楽しんでたでしょ?」
「ええ?そう?やっぱりわかった?」
「そりゃあ、まあ。」
「だって、あんまり責任なかったし、イキナリ無茶振りだし、だから思い切り楽しんでやれってね。それに、部長の言うこと、なんだか難しいから、お年寄りには無理かな〜って。それで、なるべく優しい言葉に言い換えたの。それが結構面白くてはまっちゃってさあ。」
「え・・・、そうなんですか?はあ〜っ、清美さん天才なんですね。」
「やだあ、大げさよ。普通よ、普通。普通にやっただけ。」
「それを普通と言い切るところがすごいです。でも、私も吹っ切れたんですよ。」
「へえ、どう言うこと?」
「だって、心配してたっていい結果が出るわけじゃないし、だったら楽しんでやった方がいいですもんね。」
「そうそう、そう言うこと。かよちゃん、あんたもしっかり楽しんだらいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
その時、
ポーンと飛んできた段ボールの空箱が歌陽子の頭に当たった。
「あ、あいた!」
「え?かよちゃん、大丈夫?」
「いえ、大したことありません。ただ、びっくりして・・・。でも、誰がこんな。」
歌陽子は、自分の頭に当たった空箱を拾いながら言った。
「おい、バカねえちゃん、気が散るだろ。そんなところで、いつまでもペチャクチャしゃべってるなよな。」
「まあ、そ、宙。なんてことするの!」
「今度は俺の出番だよ。頼むから集中させてよ。ま、それでも、負ける気はしないけどさ。」
「おい、弟くん。」
そこへ、清美が横から口をはさんだ。
「なんだよ、バカねえちゃんの友だち。」
「君、可愛いね。お姉さんと、メアド交換しない?」
「そ、そんなこと、できるわけないだろ!」
まだ中学生の宙は、さすがに赤くなってプイと横を向いた。
やがて、小休止が終わり、表のステージから宙たちのプロジェクトを紹介する声がかかる。
「では、次のプレゼンテーションは『ARTIFICIAL BODY』です。」
(#139に続く)