今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#137

(写真:シティギャング)

喝采

腰の下のモーター音に、久里山はもぞもぞと居心地悪そうにした。

「大丈夫ですから、落ち着いて座っていてください。」

落ち着かない久里山の様子に佐山清美が声をかける。
そのうち、車椅子の車体が上がり始めた。

「おおお。」

思わず、久里山から驚きの声が漏れる。

それは、まるで4つの車輪が踏ん張って車椅子を持ち上げているような図であった。
タイヤから車椅子を持ち上げているのは、複数のシャフトで出来た4本の鉄の腕だった。
そして、そのままの形で、ゆっくりと段差まで近づくと、右前の車輪を足のように持ち上げた。そして、段差の上に足場を固定すると、今度は左側の車輪が続いた。
さらに、車輪で段差の上を前に進むと、今度は後ろ足に当たる後輪を持ち上げる。
文字に書くと、よく高校生のロボットコンテストで見られる光景を想像する。
しかし、この車椅子ロボットの動作は非常に滑らかで、車椅子の上の久里山はほとんど揺れを感じなかった。そして、段差を上がる動作はわずか10秒足らずのうちに行われた。

中央ブースの段差の上では、清美が先回りして待っていた。
段差を上がり切った車椅子に近寄るとボール状のコントローラーを押して、通常の形態に戻した。そして、車椅子の久里山に手を差し伸べて、彼を立たせようとした。

「いかがでしたか?」

「いやあ、たいしたもんだ。」

スタッフの技術員から杖を受け取りながら、久里山は満足気に言った。

「でしょ。車椅子と言うより、新しい時代の乗り物です。まだまだ試作品ですが、いつか必ず、こんな車椅子が町中を走り回る日がきっと来ると信じています。」

「いや、ロボットもだが、娘さん、あんたその若さでよく機械の勉強をしている。うちの孫にも聞かせてやりたいと思ったほどだ。」

「い、いえ。私は台本通り喋っていただけですから。」

清美は謙遜をした。
ただ、正確には、イアホンを通して聞こえる川内の言葉を、彼女なりに噛み砕いて喋っていたのである。しかし、正確に伝えるのみならず、それをわかりやすく言い直すことは、瞬時に川内の話を理解しなければできないことだった。そのプレゼン能力の高さには、代役を立てた本人である川内も舌を巻いた。

「いや、いや、あんたの話し方も実に良かった。最初は何が起きるかおっかなびっくりだったが、あんたの言うことなら間違いないと身をまかせることができたわ。
なあ、皆の衆、どう思うかの。」

久里山は会場に向かって呼びかけた。

すると、それに呼応するようにまず会場の中央からまばらな拍手が起きた。そして、それは波紋のように左右に広がって行った。
やがて、会場全体が拍手に包まれ、最後は喝采の渦となって、清美のプレゼンを讃えた。

思わぬ反応にびっくりしながらも、思わずほころぶ顔を持て余して、清美は何度も何度も辞儀をした。
まるで、他に聴衆の感情に応える術を知らないかのように。

(まさか、今日がこんな日になるなんて。今まで、頑張ってきてホントに良かったあ。)

文字通り、感無量である。

(#138に続く)