今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#136

(写真:山の向こうの怪獣)

機械の足

「何はともあれ、試して下さい。」

佐山清美が、背の低い車椅子を押してベッドに近づけると、車椅子の背面のランプが点滅し、ベッドと通信を始めた。
そして、清美が手を離すと同時に、車椅子のタイヤはひとりでに転がり始めて、ベッド脇の定位置に収まった。

「では、久里山さん、身体をベッドに乗った時の位置まで、少し右にずらして貰えませんか?」

「ああ、こうか?」

久里山がベッドの上の身体の位置を変えると、

「はい、結構です。次は乗った時に使った操作盤の『車椅子乗車』を押してください。」

久里山が操作盤の『車椅子乗車』を押すと、またベッドは真ん中から割れた。そして、久里山を乗せた側がベッドと垂直になるように移動し始め、車椅子に覆い被さるように、その上まで来るとピタリと止まった。
ベッドの片割れは、そのまま器用に久里山の腰と膝の位置で三つに折れた。
そして、ベッドはジョイントで固定され、久里山は車椅子の上に座り込む形になった。
その横からは、ボール状のコントローラーがせり上がってきた。

「これは、どう動かすんじゃな?」

久里山の質問に、

「少し慣れが必要ですが、そう難しくはありません。今は、時速10キロ程度しかスピードが出ないように調整してありますから、安心して動かしてください。
では、まず、右手のボールに手を置いて下さい。
前に転がします。どうですか?」

久里山が清美の言葉に従って、ボールを前に転がすと、車椅子とベッドの接合部分が離れ、そろそろと前に動き始めた。

「スピードはボールを転がす強弱で調整できます。バックしたければ、後ろに転がします・・・わっ!」

急に久里山が車椅子をバックさせ、その後ろに立っていた清美にぶつかりそうになった。しかし、車椅子の衝突センサーが障害物を検知して、彼女にぶつかる前に優しくタイヤをロックした。

「わあ、びっくりした。久里山さん、大丈夫でしたか?」

「ああ、平気じゃ。それにしても、実に賢い車じゃの。」

「はい、驚いた身で言っては何ですが、安全第一ですから。」

「だがの、これで街中を走るとしても、道にはでこぼこが多いでのお。道から外れても、やはり難儀しそうじゃわい。」

「そうですね。まだ、公道を走るにはいろいろと整備が必要です。ですが、多少の段差なら問題ありません。こちらへ来て下さい。」

そう言って清美は、中央のブースの少し段差が作ってあるところまで、車椅子の久里山を誘導した。

「それでは、そのまま進んでください。」

「だが、段差に邪魔されて進めんじゃろう?」

「ならば、段差のあるところに来たら、久里山さんならどうします?」

「足を上げて乗り越えるだけのことじゃ。」

「じゃあ、そうしましょう。ボールを上から強く押してください。」

「強く、こうか?」

「はい。」

久里山が車椅子のコントローラーのボールを強く押すと、彼の腰の下でいくつかのモーターが唸り始めた。

(#137に続く)