成長とは、考え方×情熱×能力#134
万能ファインダー
「ちょっと、用足しは困るんですけど、代わりに、そうだ、新聞を読みませんか?」
「別に、新聞は朝読んで来たしのお。」
「まあ、そう言われずに。ではまず、あそこの新聞を取ってください。」
「あそこって、手を伸ばして届く位置でないでないか。」
「じゃあ、目の前のファインダーに新聞が映るように動かしてください。」
「ファインダーって、このテレビのことか?」
「あ、はい。そうです。分かりづらくてごめんなさい。」
「こうか?」
「はい、ファインダーに収まると、机の上のものが、色分けして映りますよね。新聞分かります?」
「この赤い色じゃろ?で、どうするんじゃ?」
「では、テレビの新聞を指で押して下さい。」
「こうかの?」
すると、アームはひゅっと新聞まで伸びていき、ゴムで覆われた柔らかなハンドを広げると、クッと新聞を器用につかんで持ち上げた。
そして、そのまま久里山の元に戻ると、どうぞをするように、彼の前で新聞をつかんだハンドを軽く開いた。
「いや、これはいい。これはなんでも掴めるのか?」
「はい、重量制限はありますが、大抵のものを掴むことは可能です。例えば、コーヒーを満たしたカップを中身をこぼさずに運ぶこともできます。」
感心した久里山は新聞を受け取ると、早速読もうと広げてみた。
すると、すかさずハンドが新聞の片側を固定する。同時に目の前のファインダーが水平になり拡大鏡の代わりをした。ファインダーには、新聞の一部が大きく映し出されていた。
「こんなたいそうな虫めがねは要らんがの。」
「まあ、そう言わずに、手でなぞってみてください。」
「ん?おお!これは便利じゃな。」
久里山が手でなぞるに従い、新聞の映し出されている場所が移り変わった。親指と人差し指で、画面の文字を拡大したり、縮小したり、いわゆるスワイプ機能をも、いつの間にか久里山は使いこなしていた。
久里山が新聞をめくろうとすると、それを察知したかのように、ハンドは半分開いて新しいページを受け入れる体制を取った。
そして、新しいページを検知すると、ハンドはまた新聞の片側を優しく押さえた。
「ほう、これは生きておるようじゃな。」
「実は、少しプログラミングしてありまして、新聞とかコップとか、物に合わせてシナリオが用意してあるんですよ。でも、いずれは、その人その人に合わせて、サポートする動作を学習する予定です。」
「賢いのお。じゃが、新聞を読むだけではつまらんぞ。他になんかやってはくれんか?」
「はい、では映画をごらんになりますか?目の前のテレビに話しかけてください。」
「どんなふうに?」
「例えば、『映画』とか『ドラマ』とか、『時代劇』とか。」
「じゃあ、『時代劇』。」
すると、目の前のファインダーが切り替わり、時代劇のタイトルリストが大きな文字で写しだされた。
「おお、『水戸黄門』に『眠狂四郎』に、『宮本武蔵』まであるでないか。」
「はい、お好きなものをどうぞ。」
佐山清美はにっこりと笑いかけた。
(#135に続く)