成長とは、考え方×情熱×能力#133
技術の粋
佐山清美が、三葉ロボテクのベッド型ロボットを、「実際に試してみませんか?」と呼びかけると、それに応じて名乗り出た老人が二人。
一人は、始まる前に歌陽子と会話した、マダム・ピアこと、梨田夫人。
もう一人は、清美の目の前に席を取った男性で、最初から強い興味を示していた。
時間の都合で一人しか体験できないことを伝えても、二人の老人は譲り合うことをしなかった。それで、仕方なく清美は二人をじゃんけん**で競わせた。
そして、その勝者が清美の目の前の老人だった。
足が悪いと思しきその男性は、しかし車椅子に頼らず、一本の杖を頼んで顔をしかめながら立ち上がろうとした。
清美は手を伸ばして、彼を支えて立ち上がらせた。
清美に手をとられて身体を支えられながら、満更でもない様子で老人は介護ロボットに数歩の位置まで近づいた。
「あの、お差し支えなければ、名前を教えて貰えませんか?」
「ん?わしか?わしは久里山じゃ。久里山潔、84歳じゃ。」
「そうですか、私は清美と言います。きよしときよみ、なんだか縁がありますね。」
「こらあ、年寄りをからかっても何も出んぞ。」
そう言って、久里山老人は歯のない口を開けてカカと笑った。
どうやら、清美は老人の緊張を解きほぐすのに成功したようである。
「さ、どうぞ、ここに腰を下ろして下さい。」
清美は、久里山をロボットベッドの一段くぼんでいる片側に導いた。
清美に支えられ、久里山が静かに腰を落とすと、彼女は老人の腕に手を置いて安心させるように声をかけた。
「さあ、力を抜いて下さい。あとはロボットに任せれば間違いないですから。」
「あ、ああ。そうかの。」
とは言え、実際に装置に身を委ねるとなるとやはり緊張をする。
久里山が座った右側が操作盤であった。
清美は、老人の不安をほぐすように腕に手を置きながら、
「では、このボタンを押してみて下さい」と「アガル」と書いてあるボタンを指し示した。
老人は、少しビクつきながらボタンを押し、やがてゆっくりとモーターが周り始める。
そこで、清美は一歩後ろに引き、鉄のアームの可動域を確保した。
アームが滑らかに動き、久里山の脇に寄り添うと、彼は自然にそれに身を預けた。
彼が座っている窪みが張り出して、久里山はその動きに従って膝を伸ばし、やがて足全体を乗せる形になった。それはアームに身を預け、上体を起こしてベッドと垂直に足を伸ばして座っている形である。
そして、その垂直な張り出しがベッド方向に回転し、同時に上に上がり始めた。
上に上がった張り出しが、窪みにぴったりと収まると、久里山は何の苦もなくベッドに乗っていた。
「これはよくできとるの。」
「そうでしょ。では、何か今したいことはありますか?」
「そうじゃの。そう言えばトイレに行きたくなったかのう。」
「トイレは・・・、あくまで展示用なので、そこまでの対応はちょっと。」
絵を想像したのか、少しもじもじする清美。
「こら、久里さん、若い子を困らせてはならんぞ。」
久里山の友人と思しき老人が前の方から野次を飛ばした。
「分かっとる、わしもこんなところでズボンは脱ぎとうない。冗談じゃよ。」
「え・・・、えへへ。」
答えに窮して、笑って誤魔化すしかない清美であった。
(#134に続く)