今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#130

(写真:夜明けの大日ヶ岳)

女子供

「宙?どうして?」

歌陽子の口からからつぶやきが漏れた。

脇にノートパソコンを抱え、ヘッドセットをつけた、ストライプシャツとジーンズの少年。
その細身で華奢な体で、今から聴衆を相手にプレゼンテーションを行うと言う。
無口な老人たちの口からも、ざわざわと囁きが漏れた。

司会者は、聴衆を驚かせた少年の素性を皆に明かした。

「出展名『ARTIFICIAL BODY』のプレゼンターは、まだわずか14歳の少年です。しかし、彼は天才少年として技術愛好家の中では有名な存在です。そして、彼はあの東大寺歌陽子嬢の弟であります。才媛のお姉さんに対して、天才少年。まさに、この兄弟対決、果たして勝敗はどうなりますか。」

紹介を受けた宙は、歌陽子の方に向かってニッと笑った。
自分たちのロボットによほど自信があるから、歌陽子を叩き潰す役を自ら買って出たと言うことなのか。

歌陽子はいたたまれなくなって、つい目をそらした。そして、その歌陽子の様子に満足したのか、ノートパソコンを手に持ち替えて高々と差し上げた。
自信たっぷりの表情は、まるでホームラン予告をしているバッターのようである。

「代表、まさかあなたがここまで入れ込んでおられるとは驚きです。」

非常に感心した表情を作って、牧野は東大寺克徳に言った。

「何がですか?」

牧野の腹ぞこが手に取るように分かる克徳は、渋い顔をしながら返した。

「今日のプレゼンターの二人までが代表のお子さんですからね。しかも、あの宙君でしたか、あんな年端もいかない子供に、いつか会社を任せて欲しいと言われた時は肝を潰しましたよ。」

一層の渋ヅラをして、

「世迷言です。どうか気にせんでください。それに恥ずかしいことですが、宙のやつ、最近やたら歌陽子を意識するようになりましてな。ことあるたびに対抗意識を燃やすのです。」

「はあ、私らつまり兄弟喧嘩に付き合わされていると、そう言うことですか?」

「いや、それを言っては身も蓋もない。彼らは年は若いが、東大寺の名に恥じないプレゼンテーションをすると信じています。」

「ですが・・・、あっ、代表、コーヒーはいかがですか?」

牧野は一旦言いかけた言葉を切って、部下から渡されたコーヒーを克徳に勧めた。

「や、どうも。牧野さん、今何か言いかけませんでしたか?」

「ああ・・・、実は私どものプレゼンターは、超ベテランで、我が社の開発のトップです。ですから、こう言っては失礼ですが、女子供が相手では、少し不公平が過ぎると思いましてな。」

鼻から息を抜きながら、克徳は無言で応じた。いくら行きがかり上、ことここに至ったとは言いながら、正直腹に据えかねた。しかし、歌陽子と宙が遅れを取ることがあれば、克徳の面目は丸潰れになる。

そして、スポットは三人目のプレゼンターを求めて動き始めた。
今度は、プレゼンターが照らし出される前に司会者が紹介を始めた。

「さて、自立駆動型介護ロボット、3つ目は我が社の技術の粋を凝らした『SR-K01』を紹介いたします。プレゼンターは、我が三葉ロボテク開発部のエース、川内です。
川内は、我が社の開発全般を束ねる責任者であり、製品開発の要です。
他のプレゼンターのような花はありませんが、プロならではの内容の濃いブレゼンテーションをご期待下さい。」

そして、スポットが中央のブースに姿を現した人物を捉えた。
余裕たっぷり、コーヒーを口に運んで見ていた牧野であったが、そのスポットに照らし出された姿にコーヒーを吹き出しそうになった。

「は、どう言うことだ?何か間違っていないか?」

そして、慌てて携帯電話を取り出すと、川内の番号をダイヤルした。

トゥルルルルル。ガチャ。

「はい、川内部長の携帯です。」

「おい、お前は誰だ?」

「し、社長。」

「おい、川内はどうした?川内を出せ。」

「え・・・、その・・・、川内部長は体調を悪くしてプレゼンテーションはできません。それで・・・、代役を立てました。」

「バ、バカモン!」

ガチャ。

「いやあ、牧野社長、私に対するお気遣いですかな。女子供ばかりでのプレゼンなら、むしろ公平ですな。」

克徳が愉快そうに返した。そして、今度渋ヅラを作るのは牧野の方だった。

中央のスポットに照らされた人物、

それは、

総務部の佐山清美であった。

(#131に続く)