今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#129

(写真:ライク ア イーグル)

プレゼンターズ

司会者は、続ける。

「まだ寒さも厳しい折にも関わらず、今日は皆様にお集まりいただきましたこと、まことに有難うございます。
私たち東大寺グループ、および三葉ロボテクは、今の豊かな社会の継続のため、新たな取り組みが必要と考えております。
私たちが危惧する未来の姿は、介護人口の増加と、介護を行う人員の不足です。
私たち一人一人の願いは、誰もが命のある限り満足な生を生き遂げることです。しかし、著しい人員不足が、私たちにそれを許さなくなるのです。
助けを求めているのに、助けが来ない。助けたいのに、助ける手が足りない。
そんな未来には、私たちは豊かな人生を諦めざるを得ないでしょう。
しかし、私たち人類の歴史を紐解けば、疫病や飢餓、そして災害などが私たちの生存を脅かした時、技術革新で何度も危機を乗り越えて来ました。
そして、今の時代の私たちも、やがて訪れる危機に手をこまねいて待つのでなく、革新的な技術で豊かな未来を開きたいと願うのです。
今日、皆さんに見ていただくのは、私たち三葉ロボテクがご提案する、高齢者介護の未来です。私たちの専門であるロボットが作る明るい未来をご覧ください。」

そこで、司会者の話は一旦途切れた。それに合わせて、まばらに拍手が起きる。
と、そこで会場のライトが暗くなった。
スポットが天井に照射され、やがて2つ、3つとその数を増やしていった。
複数のスポットは、互いに交差しながら、会場をきままに飛び回り、やがて、ステージ集まって、司会者を明るく照らした。

「さて、ここで、今日皆さんにロボットを紹介するプレゼンターを紹介します。」

司会者に当たっていたスポットの一つが、傍にそれ、右手のブースの前に立っている人物を照らした。

「牧野社長、少し芝居掛かってはいませんか?」

諸事、派手を嫌う東大寺グループ代表、東大寺克徳が聞いた。

「いいえ、代表。相手は高齢者たちです。ここまで、派手にやらないと半分以上寝てしまいますよ。」

スポットの中に浮かび上がった人物は、東大寺家令嬢の歌陽子であった。

「ご紹介します。自律駆動型介護ロボット『KAYOKOー1号』のプレゼンターは、東大寺歌陽子嬢です。東大寺嬢は、若干21歳、今年入社した社会人1年目の新人ながら、本プロジェクトを引っ張ってきました。まさに、才色兼備の才媛であります。」

(誰が書いたの?この原稿?)

少し盛り気味の紹介に心で苦笑いしながら、それでも満面の笑みを浮かべて、会場に向けて大きく手を振った。
それに、わあっと会場が沸き立ち、山鳴りのような拍手が起こった。

「さすが、嬢ちゃん。年寄りの気持ちをつかませたら右に出るもんはいやしねえ。」

ブースの裏では、前田町が感心していた。

一方、

「娘さん、なかなかやりますな。お父様も、さぞ鼻が高いでしょう。」

「いや、多少手を叩いて貰ったくらいで舞い上がるようでは、たかが知れていますよ。大事なのは、プレゼンテーションの中身ですからね。」

にこりともせずに、克徳は牧野に返した。

中には、

「あれ、あんな可愛い娘、うちにいたか?」と聞いている男子社員もいた。
安希子のメークの威力は抜群だった。

「ばあか、ちゃんと紹介聞いてろよ。あれは東大寺のとこの娘だよ。」

「へえ、あれが?見違えちゃったよ。」

次にスポットは会場の左に移った。
そして、左側の人物の影を照らした。

それは、宙とオリヴァーのブースだった。
そして、当然オリヴァーがプレゼンターに立つと思いきや、スポットに照らし出されたのは、

「宙!どうして?」

(#130に続く)