今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#128

(写真:空への憧憬)

思惑

三葉ロボテク、ロボットコンテストに参加する3つのブースをバックに簡易なステージが作られ、マイクスタンドが置かれた。
ステージの目の前の観客席には、今日の主賓である高齢者とその介護家族、そして、三葉ロボテクと東大寺グループの面々が顔を揃えていた。
観客席の中央後方、少し段差をつけて高くなっている場所に、東大寺グループ代表、東大寺克徳とその側近数名が席を取り、その中に今回の立役者の一人、村方の姿も見えた。
そして、克徳のすぐ横には、三葉ロボテク社長の牧野が座っている。牧野の後ろには、専務、常務の役員たちがいた。

克徳と牧野は決してウマが合うわけではない。むしろ、今回のことでそれぞれの思惑がぶつかっていた。
自立駆動型介護ロボット事業を推し進めたい東大寺グループとしては、なんとしても産業ロボット製造の中核メーカー、三葉ロボテクに参画して貰いたい。
その時、たまたま同社に席を置いていた令嬢の歌陽子に権限を与えて、交渉に当たらせることにした。
もちろん、歌陽子がどこまでやれるかを試すのが目的だったから、あまり大きな期待を寄せていた訳ではない。
しかし、その歌陽子から思いも寄らず、ロボットコンテストと言う話が飛びだした。
最初から、自立駆動型介護ロボットでは、はねつけられるだろう。それで、父親である克徳の名前を使って、今回は大々的に全社で行うことを了承させた。その上で、出展作品に『自立駆動型介護ロボット』で申し込んだ。それも、東大寺歌陽子の名前で。
これは、東大寺グループ差し金の出来レースだと、誰もが考える。
東大寺グループ代表の目の前で、社員の立場を利用して、『自立駆動型介護ロボット』をブレゼンするのである。
これで、三葉ロボテクは、『自立駆動型介護ロボット』開発の意思ありと認めたことになる。
だが、仕掛けているのは、三葉ロボテクの社員の立場ではあったが、レッキとした東大寺の身内。完全に騙し討ちである。

もちろん、三葉ロボテク側としては握りつぶすことも可能だった。
しかし、その他の参加希望者たちを一切退けて、最強チームで迎え撃つことに決めたのは、社員の牧野自身だった。
しかも『自立駆動型介護ロボット』と、同じテーマをぶつけて、歌陽子たちの目論見を叩き潰すために。
チームビルディングは、コンテストから2週間で完了した。そして、水面下で準備を進めて、克徳と歌陽子の目の前でハッキリ戦線布告したのは今年の1月2日だった。

なぜ、そこまで牧野は歌陽子たちに対抗意識を燃やすのか。
それは、AIをベースとする自立駆動型ロボットはまだ市場展開まで時間がかかる。その間の開発にエース級の人材を取られては、本業の市場競争力が損なわれてしまう。
それで、『自立駆動型介護ロボット』開発のオファーはあえて返事を保留してきた。有り体に言えば無視をした。
だが、思わぬ伏兵であった歌陽子の手引により、ことここに至った以上は敢えて受けて立つしかなかった。
そして、それは既存技術ベースの採算性の高いモデルをぶつけ、東大寺グループの意思を三葉ロボテク寄りに補正するためである。

立場からすれば、克徳と牧野は上司と部下の間がらだったが、この場の二人は別の思惑を持った競争相手に他ならなかった。

やがて、ステージには三葉ロボテクから選抜された司会者が立った。

「皆さん、時刻となりましたので、今から三葉ロボテク主催のロボットコンテストを開催いたします。」

(#129に続く)