今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#116

(写真:青に橙)

意地対意地

ホールから外に姿を現した前田町と野田平の二人、そこに歌陽子が合流した。

「おう、カヨ、遅いじゃねえか。お前がグズグズしているから、だいたい俺らで片付けちまったぜ。」

「す、すいません。帰りの道が混んでて。」

「嬢ちゃん、まあいいってことよ。やるべきことはキチンとやったから、後は明日だ。今日はいいから、もうけえんな。」

「はい、あの私、もう少しここで待ってます。」

「誰か来んのかよ?」

野田平の質問に、

「はい、安希子さんが迎えに来てくれます。」

「あ、あのスゲエねえちゃんか!よくまあ、お前はあんなのと暮らして神経が持つもんだな。」

「い、いえ。仕事の時は、すごくしっかりしるし、親切なんです。それに、なんだか最近優しくて。」

「へえ。」

「嬢ちゃんの人柄の賜もんだぜ。」

「むしろ、お前があんまりガキっぽいから母性に目覚めたんじゃねえか?」

「え〜っ。だったら、野田平さんももっと私に優しくして下さいよ。」

「こいつ、調子に乗んな。」

「ガハハ、無理だ、無理だ。のでえらは、気に入った相手ほどひでえ扱いをしやがんだ。だいたい、コイツ、それで昔恋女房に逃げられてるんだからよ。」

「前田の、要らねえこと言うんじゃねえ。」

「じゃあ、嬢ちゃん、気いつけて帰んな。」

「はい、前田町さんも野田平さんも気をつけて。明日、よろしくお願いします。」

「じゃあな。」

「寝坊すんなよ。」

「はい、もちろんです。」

ぺこりと頭を下げた歌陽子に、二人の技術者は軽く手を振りながら連れ立って夜闇に溶け込んで行った。

(あの人たち、まっすぐ帰るかなあ。)

少し心配しながら、歌陽子は安希子が来るまでの間、まだ灯りが残っているホールの軒下で彼女のスマホを開いた。

そこへ、

「東大寺君」と声をかけて来た人物がいる。

「!!」

「まだ、残っていたのか。明日本番だろう?」

「し、社長・・・、お疲れさまです。」

ふらりと姿を現したのは、三葉ロボテク社長牧野だった。

「でも・・・、なぜ、社長が今の時間にここにいらっしゃるのですか?」

「それは、一応どんな会場か、この目で見ておこうと思ってね。ただ、中が見られないのは残念だ。もう少し、重役会議を早く切り上げるつもりだったのだが。」

「あの、社長。写真でよろしければご覧になりますか?」

そう言って歌陽子は、牧野にスマホに保存した画像を見せた。

「私も途中で外に出たので、最終ではありませんが。」

「構わんよ、なるほどよく撮れている。君の腕が良いのかな。」

「いえ、最近のスマートフォンが高機能なだけです。」

「ん?なんだ、うちのブースはまた派手だな。ロボットコンテストなんだから、要らぬお金はかけないように言ったのだが。それに引き換え、君のところのブースはシンプルで実にいいな。」

「有難うございます。でも、頂いた予算を目一杯使わせていただきました。」

「東大寺君・・・。」

少し意外そうに牧野が言った。

「はい。」

「まさか、君から予算と言う言葉を聞くとは思わなかったよ。君は、東大寺グループ本体の支援を受けているから、予算は青天井かと思っていた。」

「あ・・・、はい。皆さん、そうおっしゃいます。でも、父はそう言う点はとても厳しいんです。私は、この会社の一課長に過ぎないから、決して分不相応のことをしてはならない、会社から与えられた権限や予算の中で立派に成果が出せてこそ一人前の企業人だ、と言われています。」

「なるほど、いかにも代表らしいな。しかし、東大寺君。」

「はい。」

「こうして見ると、君も普通の女の子だな。いや、二十歳入社だから、最年少組の一人だよな。」

そして、牧野はホールの消え残っている薄暗い灯りを通して、歌陽子をまじまじと凝視した。

「あの・・・、社長?」

「だが、こんな娘にここまで会社をかき回されるとは・・・、血とは恐ろしいもんだな。」

「それは、その・・・、私・・・、そんなつもりは。」

少し牧野の目がきつくなった。
そして、歌陽子は思わず視線を逸らしてしまった。

「自覚がないのか・・・。まあ、よかろう。おかげで、うちの技術者も少しは本気になったろう。災い転じてなんとやらだ。」

「災い・・・。」

「いや、言葉のあやだ。気にせんでくれ。だが、私をここまで意地にさせたのは、君と君のチームの三人の技術者たちだ。私も叩き上げの技術者でね。あの三人とは同族だと思っている。だが、この会社に招聘された以上は、何としても結果を出さない訳にはいかない。だから、君ら同調できないものを放って置く訳にはいかんのだよ。そして、意地にかけてもこの機会に君らを従えてみせる。分かるかな、東大寺歌陽子君。」

自分の会社の最高責任者を前にして、歌陽子は不思議と腹が据わっている自分を感じていた。

「あの、私からも良いですか?」

「構わんよ。」

「社長の預かり知らぬこととは言え、私だって、いろいろひどいことされて来たんです。いきなり、課長って何ですか?しかも、あんな別館に押し込められて、三人からも周りからも、朝から晩までガンガン言われて。頭がおかしくなります。あ・・・、あの・・・。」

ここまで、啖呵を切りながら、やっぱり相手の反応が気になるのが歌陽子たる所以である。

「続け給え。」

「私、本当はぜんぜん自分に自信がなくて、だから東大寺って言われるのが重くて。でも、東大寺だからって、こんな扱いを受けるのはやっぱりおかしい。私は東大寺家の人間としては期待はずれかもしれないけど、それ以前に感情のある人間です。私をちゃんと普通に扱ってください。
だから、負けない。皆んなに勝って見返してやると思いました。私にだって、そんな意地があります。」

「それは、私も同じだ。それに・・・。」

「それに?」

「私は昔から金持ちってヤツが嫌いでね。」

「え?」

「例えば、あんな車に乗っている人種だよ。」

「・・・!!」

いつの間にか、駐車場には安希子がいた。
しかも、真っ赤な歌陽子のフェラーリをバックに、車のカギをチャラチャラ指に引っ掛けて回している。

「お嬢様!何をされているんですか?早く帰りますよ。帰りは運転お願いしますね。」

「さあ、東大寺君、行きたまえ。」

(最悪・・・。)

(#117に続く)