成長とは、考え方×情熱×能力#113
鬼と妖怪
「おーい、おめえら、面白いヤツ連れて来たぜ。」
「バァカ、のでえら、嬢ちゃん呼びにやったのに、おめえまで余分なことやっててどうすんでえ。もう、時間がねえんだぜ。」
「前田の、そう固えこと言うなよ。それより、こいつ誰だか分かるか?」
「ん?」
「お!」
「分かったろ?うちのカヨにプロポーズかけたって言うイケメンよ。」
「だがよ、てえことは、俺ら最大のライバルじゃねえか。何も、連れ込んで手の内見せるこたああるめえ。」
「前田の、ちょっとくらい見られて、それでなんもかんも分かっちまうほど、やわじゃないだろ?お前の技術はよ。」
「いいやがる。なら、いいぜ、こっちへ来ねえ。」
前田町はロボットを組みかけているところにオリヴァーを招いた。
「ワオ、ヒューマノイドですね。」
「なんて?」
「人型ロボットですね、ってことです。」
日登美が前田町の傍から説明をした。
「まあな。だが、人型なんざ、珍しくもねえだろう?」
「珍しくもないと言うか、少々フルクサイですかね。」
オリヴァーは、あえて挑発するような言葉を選んだ。
だが、前田町は、
「タリメーヨ、作ってるヤツが古くせえんだ。ロボットも古臭くなって当然でえ。文句あるかい」と切り返した。
「それによ、俺たちのロボットを古くせえって言うんなら、若造、おめえ、ユーザーってもんが見えてねえぜ。なにしろ、使うヤツらも古臭えんだからよ。」
確かに介護ロボットだから、ユーザーも年寄りである。
「なるほど、まあ、いいでしょ。僕のターゲットはあくまでカツノリ・トウダイジですから、オーディエンスのシニアに気に入って貰えなくても、カツノリの気に入ればいいんですよ。」
「はなから、東大寺に取り入るのが狙いかよ。明け透けなヤツだなあ。」
呆れ顔の前田町のところへ、
「すいませ〜ん、遅くなりました」と言いながら歌陽子が登場した。
「お前、あそこから、ここに来るまでどんだけかかってんだ。」となじる野田平。
「だって・・・。」
あのひとを食ったようなオリヴァーをあの三匹の群れに放り込んだら、まさに鬼と妖怪、どんな血の雨が降るか分からない。
そう思って、怖くてなかなか顔が出せなかった。だが、意外に前田町は大人の貫禄を見せ、オリヴァーは見事な如才なさを発揮してこの場を凌いでいた。
「まあ、のでえら、そう言ってやんな。嬢ちゃんは、小娘の細うでで搬入を頑張ってんだからよ。」
「あの、皆さんはカヨコを手伝わないんですか?」
「悲しい哉よ、人手不足だ。俺ら、組み立てで精一杯でよ、嬢ちゃんを手伝ってやる余裕はねえんだ。
それより、おめえのところは、頭のあんたがフラフラしていてもいいのか?」
「ノープロブレムです。セッティングは、うちのテクニカルがやってくれますし、トウダイジからも何人かヘルプを貰っています。」
「そりゃあ、てえそうなこって。」
「ですが、なぜトウダイジはカヨコにヘルプを出さないんですか?」
「それがよ、嬢ちゃんの馬鹿正直って言うか、生真面目なとこでよ。自分はあくまで、会社の一課長に過ぎないんだから、東大寺から人を出して貰ったら公私混同になるって言いやがってよ。」
そう言いながら、前田町は手だけは休みなく、歌陽子が運んだ工具でロボットの組み立てを続けていた。
「お、なんだ、ゲエジン、面白えか?」
「はい、ビューティフルです。」
「あ?気持ち悪いやつだな、年寄りのシワのよった手を見て、ビューティフルもねえもんだ。」
「そうではありません。あなたの手の動きがとてもビューティフルです。あっと言う間に、鉄と線の固まりが、ロボットに生まれ変わる。どれだけ見ていても飽きません。」
「下手なガイジンレポーターの真似すんじゃねえよ。バァカ。」
そう毒づく前田町も、満更ではなさそうである。
「よし、嬢ちゃん、電源入れてくんねえ。」
「はあい。」
「ゲエジン、少し離れてくんな。」
歌陽子がスイッチを入れてロボットに通電すると、それは静かなモーター音をさせて、滑らかに立ち上がった。
そして、前田町がポンと肩を叩くと、それに反応して滑らかに身体をひねり、自然な動きで鉄の腕を前田町の肘の辺りに添えた。
「まるで生き物だ。AIもコンピューターの計算も行わずに、手での調整だけでここまで作りあげるとは。恐ろしいな、ニホンのショクニンは・・・。」
オリヴァーは、素直に畏敬の念をもって前田町たちの技術を讃えた。
「それじゃ、カヨコ、そろそろ僕は自分のブースを見に行くよ。じゃ、みなさん、明日、ヨロシク。」
「ああ、しっかりやりあおうぜ。」
「オリヴァー・・・、ありがとうございました。」
ぺこりと頭をさげる歌陽子に、オリヴァーは気持ちの良い笑顔を返しながら、自分のブースに向かって歩き始めた。
その時、
ヴゥーッ!ヴゥーッ!と、オリヴァーの携帯が鳴った。
「やあ、ソラ!今、どこだい?」
電話の相手は歌陽子の弟の宙であった。
「家だよ。」
「せっかくだから見にこないか?」
「うん、だけどいいや。夜に出歩くと母さんがうるさいし。」
「意外にソラはマザーボーイなんだな。」
「そんなんじゃないけど、面倒臭いからさ。
それで、うまく行ってる?」
「ああ、ノープロブレムだよ。それと、カヨコの仲間に会ってきた。」
「へえ、じいさんばかりでガッカリだったろ。」
「いや・・・、彼らはホンモノだよ。」
(#114に続く)