成長とは、考え方×情熱×能力#112
ミスター下世話
(きゃーっ!野田平さん!)
よりに寄って、決してこんなところを見つかってはいけない相手に見つかってしまった。
慌てた歌陽子は、
「オリヴァーさん、オリヴァーさん、すぐにどこか行ってください!」と声を落として必死に頼む。
しかし、オリヴァーは、
「これほっておけないよ」と両肩の機材の存在を歌陽子にアピールした。
「いいですから、いいですから!ホント大丈夫ですから!」と、なんとかオリヴァーをここから遠ざけようとする歌陽子。
その時、
「何がいいんだ?」と耳の横で野田平の声がした。
「わっ!」と飛び上がる歌陽子。
「うるせえ!」
バシッと歌陽子の頭をはたき倒す野田平。
いつの間にか、野田平がすぐ近くまで来ていたのに、オリヴァーに気を取られた歌陽子は全く気づかなかった。
「それより、カヨ、こいつは誰だ?」
「え・・・と、通りがかりの親切な外国のかたです」
「だけど、どっかで見たような・・・。」
「あ、あはは。」
「あ!」
「え?」
「こいつオリヴァーとか言う、お前のいろ(情夫)だろ!」
「ち、違います!」
「さんざん、違うとか関係ないとか抜かしやがって、実際はここまで進んでやがるじゃねえか。」
こう言う下世話なネタになると俄然馬力がでるのが野田平。歌陽子は、まるで、蛇に丸呑みにされかけているネズミの気持ちだった。
「ねえ、カヨコ、イロって何かな?」
あっけらかんとオリヴァーが聞く。
「え?ああ、あの、お友だちってこと。」
「バァカ、いろってえのは、いい仲ってことだろが!愛人のことだよ!」
「野田平さん、何言い出すんですか!」
「アイジン・・・?」
オリヴァーは、「アイジン」の響きをゆっくり噛みしめるように呟いた。そして、唐突に、
「ああ、セックスフレンド!」
「え?」
「あ?」
一瞬、歌陽子と野田平が固まった。
「きゃーっ、なんてこと言うの!オリヴァー!」
「ギャハハ!こいつはいいや!こんな面白えガイジンは初めてだ!」
あまりのオリヴァーのストレートな物言いと歌陽子のうろたえぶりに馬鹿笑いする野田平。
「そう、僕、カヨコのセックスフレンドです。」
オリヴァーは、わざと馬鹿のフリをする。
「オ、オリヴァー、何、馬鹿なこと言うのよ!あなたと私はキスくらいしかしていないでしょ!」
「え?」
「あ?」
「きゃあ・・・。」
「ギャハハ、語るに落ちるとはこのことはだぜ。お前ら、結構行くとこまで行ってるじゃねえか!」
「あ、あれは、不本意な、そう事故です。しかも、頰にちょっとされただけです。」
必死に弁解する歌陽子。
そして、
「なあ、カヨ、まあそう言うことにしとこうか。もし、そいつが本当にお前のこれ・・・だったとして。」
そう言って野田平は小指をキッと立てた。
「野田平さん、その指やめてください。」
「そうしたら、俺らとんでもないできレースに付き合わされてたってことになるからな。だから、取り敢えず信じてやるよ。」
「ですから、違いますって。」
「それより、カヨ。」
「はい?」
「ちょっと、このふざけたガイジン借りるぜ。なあ、いいだろ?」
「僕は構いません。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう歌陽子が押し留める間も無く、野田平とオリヴァーは連れ立ってどんどんホールに向かって歩いて行った。
(#113に続く)