成長とは、考え方×情熱×能力#110
気の利くオリヴァー
「やあ、カヨコ、危ないところだったね。」
オリヴァーは手に、下に転がった大切な機材を持っている。
「ほら、カヨコ。」
オリヴァーは、歌陽子に機材を手渡した。
「あ、有難うございます。」
少し硬い表情で、オリヴァーに礼を言う歌陽子。
一ヶ月ぶりの再会である。
その間、オリヴァーが送ってきた自撮りメールは完全に無視をしてきた。
自分の気持ちは十分伝わっているだろうに、またニコニコして目の前に現れる。
「やあ、元気だった?」
メールのことはおくびにも出さない。すごく懐かしい友達と再会した、そんな体を見事に演じ切っていた。
「あ、あはは、まあなんとか。」
そんなオリヴァーにツンツンしたら良いか、親しげに接したら良いか、対応に迷った歌陽子はとりあえず、愚直な日本人に習って笑ってごまかそうとした。
そのうちに、オリヴァーがひらりと荷台に乗ってきた。
思わずビクッと身構える歌陽子。
「カヨコ、ダイジョウブ、何にもしないよ。」
身を硬くしている歌陽子に気づいてオリヴァーが声をかける。
「僕は、マサノリとの約束を守るよ。だから、心配いらないよ。」
「そ、そんなつもりは・・・。」
一応、言い訳はしておく歌陽子。
「そう?」
そう言って、オリヴァーがスッと腕を上げると、
「わっ!やめて!」と瞬間的に身を縮める歌陽子。
「ほら、やっぱり疑っている。」
「だ、だって・・・。」
歌陽子にとっては、決して気を許すべからざる相手なのだから。
「はっ、はっ、は。」
不意に屈託を吹き飛ばす笑い声をあげるオリヴァー。そして、
「バカだなあ、カヨコは。」と言う。
少し口を尖らせる歌陽子に重ねて、
「そんなことをしていてもいいの?カヨコには、ものすごく怖い三匹のゴブリンがいて、ワークハードしないとひどい目にあわされるんでしょ?」
(そうだった!)
それで歌陽子も少し態度を改め、
「あの、オリヴァーさん、では、手伝ってくださって?」と少し可愛らしいところを見せた。
「ああ、モチロン。」
本来、ライバル同士の二人、腹の中ではどんなことを考えているか分からない。
オリヴァーは、少しでもライバルチームの秘密を見たがっているかも知れない。歌陽子は、都合よく働かせて、さっさと追い払うつもりかも知れない。
しかし、今の二人にはそんな屈託は全く感じられなかった。
歌陽子には届かなかった奥の奥、電源タップと延長コードの包みにオリヴァーの長い腕は楽に届いた。
「はい、カヨコ、これだろ?」
電源タップの包みを渡すオリヴァーに、
「わあ、有難うございますう。」と、自分でもどうかと思うくらいのしなを作って答える歌陽子。
そしてそのまま、ぴょんと荷台から飛び降りると、台車に電源タップを乗せてホールに向かって押しかけた。
すると、横に並んでオリヴァーがついてくる。しかも、重そうな機材を2つも肩に担いで。
慌てて歌陽子は、
「あ、あの、オリヴァーさん、いいです。もういいですから。」と断る。
もし、このまま連れ帰りでもしたら、
「てめえ、何、敵とつるんでやがる!」と張り倒される。
しかし、オリヴァーはそんな歌陽子の心配など全く気にする様子もなく、
「カヨコ、君のような可愛い子に辛い仕事をさせたままじゃ、僕のオトコガスタル。」と、ニッコリ笑う。
「オリヴァー・・・。」
「なんだい?」
歌陽子はそのとき、かねてから感じていた疑問を投げかけることにした。
「オリヴァー、あなた、ホントは・・・。」
「ん?」
「バカなの?」
(#111に続く)