今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#100

(写真:宵のテレビ塔 その3)

火の女王

「それでは、まずわしの言う通りするのじゃぞ。」

「はい。」

歌陽子は一抹の不安を感じたが、先代を信じて素直に従った。

「まずの、靴を脱ぐんじゃ。そうストッキングもじゃ。」

「おじいさま、ちょっと、それは・・・。」

もじもじして歌陽子が言う。

「お、そうか・・・、オリヴァー、おぬし、ちと離れておれ。」

「い、いえ、私部屋に行ってきます。」

慌てて、打ち消した歌陽子に、

「あ、はい。少し向こうに行ってます。」

少し、ニヤついてオリヴァーは、その場を離れた。

「お、おじいさま、決して見ないでくださいね。」

靴ならまだしも、ストッキングを脱いでいるところを見られて嬉しい女性はまずいない。

「分かっとる、と言うか、孫のなんぞ見ても仕方ないわい。」

「歌陽子さま、安心なさって。お手伝いしますから。」

そう言って、先代から歌陽子が死角になるように由香里が前に立った。そして、あまりスカートが捲れ上がらないように、手を入れて歌陽子のストッキングを押し下げた。おかげで内股を露わにしなくても、くるぶしから片足づつ脱ぐことができた。

「もう良いかな?」

「はい。」

スカートから白い足をのぞかせる歌陽子は、まるで子供の頃に返ったようにあどけなく見えた。

その歌陽子を少しの間愛おしそうに眺めた先代は、彼女の手を取って言った。

「あそこに、階段が見えるかの?」

「はい、おじいさま。」

炭火が真っ赤に怒っている巨大な鉄の箱に、一箇所階段が設えてあった。そして、階段の上にはやっと人が二人立てるだけの踊り場があった。

「では、あそこまで参るぞ。小石なぞ踏まんように注意しての。」

「はい。」

素足の歌陽子は、先代に手を引かれて、そろそろと階段に近づいた。
やがて数段階段を上がって、すぐに踊り場に立った。
踊り場の下は、真っ赤に怒った炭の火炎地獄だった。炭火からは、パチパチと時折火の粉が吹き上げる。
その中に立つ先代と歌陽子は、炭火の灯りで朱に染まっていた。そして、炎が染め上げた真紅のドレスとスカートを風にはためかせた歌陽子は、まるで悪魔に導かれて現世(うつしよ)に姿を現した火の女王だった。

やがて、

「あ、あの二人何してるんだ?」

最初に招待客の一人が気がついた。

「あれは、前の当主と、ここのお孫さんじゃないか?」

「今度は何をするつもりだ?」

普通なら、こんな危険な場所に身を置けば、周りはビックリして止めるだろう。
しかし、東大寺家の身内も含めて、招待客の面々はこんな演出にはすっかり慣れっこだった。だから、また何か裏があるに違いないと、誰もがタカをくくっていた。

「ホッホッホ、見とる、見とる。さあ、歌陽子、皆の肝を潰してやるとするかの。」

「でも、おじいさま、ここ、ひどく熱いです。」

もじもじしながら、歌陽子が言う。真っ赤に怒った炭火の熱が彼女のつま先をジリジリと焼き始めていた。

先代は、十分周りの注目が集まっていることを確認すると、マイクも使わずに周囲によく届く声で言った。

「皆の衆、今日はよく集まってくれた。いよいよ、宴もしまいじゃ。それでじゃ、最後に余興を用意したんじゃが、今度ばかりはちと刺激が強くてのお。心臓に自信がないもんは、屋敷に引っ込んで貰っても構わんぞ。」

「え?おじいさま、何をなさるの?」

心配になって聞く歌陽子に、先代は、

「なあに、たいしたことではありはせん。今から、あの真っ赤に燃えとる炭火に飛び込むだけじゃよ。」

「え・・・、なんて?」

思わず固まる歌陽子。

「ほら、行くぞい!」

先代はいきなり歌陽子の腰に手を回し、抱きかかえるようにして、踊り場から紅蓮の炎に身を躍らせた。

「ひ、いや!あああ・・・。」

先代に抱えられ、炎に我が身を投げ込んだ歌陽子は、短く叫びを上げかけたが、それもすぐに掻き消えた。

ふわりと歌陽子の赤いドレスが宙に舞ったと思った瞬間、二人は炭火の真ん中に姿を消した。そして、後には大量の火の粉が舞い上がった。

「う、うわあ!」

「キャーッ!」

中庭は、目の前に展開した光景に騒然としていた。

(#101に続く)