成長とは、考え方×情熱×能力#97
正々堂々
じゅうじゅうと香ばしい匂いを立てる海の幸。招待客たちは顔が火照るのも構わず、炭火に近づいて、食欲をそそる匂いを堪能した。
やがて、焼けたものから順に塾生たちが熱い布の手袋で掴み取って、招待客に振舞った。
串を受け取った招待客たちは、冷ますことすらもどかしいように火傷しそうな熱い実にかぶりつき始めた。
「あ、あつ。」
「は、はふ、はふ。」
熱を持った、その豊かな肉厚の恵みを、かじりとっては舌の上で転がし、口の中に広がる熱さと旨味を楽しんでいた。
歌陽子たち三人も車海老を手渡されたが、じゅうじゅうと殻から吹き出す熱い汁に手をつけかねていた。
「あ、あつっ!」
「歌陽子さま、気をつけて。」
急いて殻をむしろうとした指に熱い汁が飛散し、慌てて手を引っ込めた歌陽子。
「お嬢様がた、それではせっかくの料理が冷めてしまいますよ。私が致しましょう。」
頼りになる安希子が歌陽子の海老を受け取ると、するすると器用に殻をむき始めた。
「安希子さん、すごい!」
由香里が安希子を絶賛した。
「さ、冷めないうちにお食べください。」
そう言って、歌陽子に白身から湯気を立てている海老を手渡した。
と見る間に、今度は由香里の海老を剥きにかかった。見る見る間に、彼女の海老も殻を脱がされていく。
やがて、三人の車海老を剥き終わると、安希子は、「ご存分に」とぺこりと頭を下げて、志鶴の用事を果たすためその場を離れて行った。
肉厚な車海老の実を口に含んで、顔を綻ばせた由香里は、
「何か、美味しいお飲みものが欲しくなりますわね」と言った。
その由香里の肩越しに、
「どうぞ」と土くれからそのまま形をこしらえたような湯飲み茶碗を手渡した人物がいた。
「あ、ありがとうございます。」
礼を言って振り返った由香里の目の前にいたのは、
「あ・・・。」
「あ・・・。」
「オリヴァー・・・、さん。」
それは歌陽子に散々ちょっかいを出して、逆に彼女に手痛い目にあわされたオリヴァー・チャンだった。
あと歌陽子と希美の湯飲み茶碗、そしてこれまた無骨なとっくりを手に入れ持って、ニコニコして立っている。
その笑顔と、登場の仕方にすっかり気圧された三人だったが、その中で由香里が気を取り直してオリヴァーに噛み付いた。
「あなた!また、歌陽子さまに何かするつもりですか!」
「ワァオ、君はなんて可愛いんだ。まさに、ニホンのシンジュ、パール・クイーンだね。」
「ま・・・。」
オリヴァーが賛美しながら笑いかけると、由香里は気を削がれて言葉に詰まった。
「そして、君は青のジュエル、トパーズ・クイーン。」
希美はオリヴァーに褒められて、心なしか顔を赤らめた。
だが、一人歌陽子だけは硬い表情を崩さない。その表情に、一瞬オリヴァーは眉の間をひそめたが、ことさら快活に、
「カヨコ、もちろん、君のことも忘れてないよ。ディープレッドのルビークイーン。僕にとって、君が一番ブリリアントなジュエリーだよ。」
それで、やっと歌陽子は顔の表情を崩しながら、
「オリヴァー、おじいさまと約束しましたよね。だから、もうあまり、私を構わないでくださいませんか?」
対して、少し右眉を上げたオリヴァーは、
「もちろん、それは守るよ。だけど、僕らはビジネスではまだライバルだ。だから、カヨコ、君には、フォアモメント付き合って貰うからね。」
「望むところです。正々堂々とやりましょう。」
キッと眉を寄せて歌陽子は言った。
「セイセイドウドウか、いいワードだ。カヨコをシンボライズしているみたいだ。フェアで、いつもストレート、だから、皆んな君にインラブなんだよ。」
「あの、よくわかりませんが。」
「とにかく、セイセイドウドウとやろう。」
「分かりました。」
「じゃあ、このジャパニーズ・クレイ・グラスを受け取って。みんなでカンパイしよう。」
(#98に続く)