今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#94

(写真:レイルスター)

嬢熱系宣言

「一年前の今日、この場に立った私は、お友達の桜井希美さん、松浦由香里さんと留学をする予定でした。
でも、本当に私の我が儘で、ごめんなさい、二人には辛い思いをさせました。そして、私は、一人で一般企業に就職しました。
私は、自分に自信が持てなくて、このまま東大寺歌陽子をしていてもいいんだろうか、お嬢様と言われたまま、それなりの結婚をして、それなりの立場になって、それなりの一生を送って・・・。
私はそんな人間じゃないのに、名前だけで持ち上げられて、つまんなくても、薄っぺらでも、皆んなに許されて、お愛想笑いして貰えて、あ・・・ごめんなさい、皆さんのことではありません。
だから、私は自分がどれくらいのものかを知りたくなりました。泥まみれでも構わない、自分だけの足で歩いてみたくなったんです。
東大寺歌陽子を、東大寺家の令嬢ではない、一人の未熟な娘として扱ってくれる場所で生きてみたくなりました。
もちろん、私は世間知らずで、自分で就職先を見つけることなんかできなかったので、 お父様に無理を言って就職先を決めて貰いました。本当は、お父様は私の就職には反対だったんです。そして、希美さんたちと留学をして貰いたがっていました。
だけど、こんな身勝手な娘の身勝手な願いを聞いてくれて、今の三葉ロボテクに就職させてくれました。」

その時、招待客の何人かからは、羨望のため息が漏れた。歌陽子にではない。東大寺家の令嬢を社員として迎え入れることができた三葉ロボテクにである。

「お父様が用意して下さった場所は、わたしの希望通りの場所でした。そこでは、私を東大寺家の令嬢として、これっぽっちも扱って貰えませんでした。
それこそ、朝から晩まで怒鳴られ、心の折れるようなことばかりを言われ、用事を言いつけられ、それが出来ないとまた怒鳴られました。本当に怖い人たちと仕事をしなくてはならなかったんです。
でも、それは全て私が望んだことだったので、簡単には音を上げませんでした。
ただ、ありのままの私は、こんなに何にもできないグズだったのかと落ち込みましたけど。」

「あなた、もう少しまともな就職先はなかったんですか?」

母親の志鶴が眉をひそめて言った。
それに対して克徳は、

「大げさな娘だ。どこの会社でも、新人ならば当たり前の話だろ。ただ、少しキツイ環境に放り込んだのは確かだがな。」

「恥ずかしいんですけど、私は一と月で体調を崩してしばらくお休みを取りました。その時、留学先から希美さんと由香里さんが駆けつけて下さって、いろいろと励ましてくださいました。いまでも、本当に感謝しています。
でも、それから会社の人たちから少しずつ心が通うようになりました。
口が悪くてすぐ手が出る野田平さん、でもとてもお母さん思いで優しい人でした。
こんな怖い人は他にいないと思っていた前田町さん、今では一番の味方です。いつも、私のことを気にかけて守ってくれます。
何を考えているか分からないところがあるけど、とても紳士的で、そして喧嘩がメチャクチャ強い日登美さん。
みんな、それぞれ癖があるけど、とても優秀な技術者たちです。それが、会社の上の人と上手く行かなくて、日陰に追いやられていました。
私は、その人たちに本来いるべき場所に戻って欲しくて、お父様が進めている介護ロボットの開発に手をあげました。
でも、会社はあまり前向きに取り組もうとはしてくれません。社長に直談判も考えましたが、一課長の私には厚い壁でした。
それで、お父様にも手伝って貰い、ごめんなさい、お父様。」

「ずいぶん、ごめんなさい、が多いあいさつだなあ。」

「黙って聞きなさいよ。」

「会社でロボットコンテストを開いて貰い、そこで直接社長にプレゼンすることになりました。
ただ、なんと当の社長がライバルになってしまいました。さらに、私の弟の宙まで、競争相手に名乗りを上げたんです。
ですけど・・・、
あの、私の話、退屈じゃありません?」

「大丈夫じゃ、歌陽子。」

先代老人の声。

「さっきの克徳の話より100倍聞き応えがある。」

それで、ドッと涌く会場。

「あ、有難うございます。それで、東大寺歌陽子、21は、皆さんの前でお約束します。
ロボットコンテストでは、私、勝っても負けても力の限り、正々堂々ぶつかります。
また、結果は皆さんにも報告します。
どうか、応援をよろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げて、また上げた歌陽子の顔はとても上気して可愛く見えた。
そして、今度は安希子のサポートなしに、拍手のウェーブが広がった。
東大寺歌陽子、嬢熱系宣言である。

(#95に続く)