今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#80

(写真:秋の奥美濃 その1)

モテ期?

(歌陽子の独白)

頭がくらくらした。
私は、男の人に今日の今日まで抱きつかれたり、ましてやキスなんかされたこともない。
それなのに、いきなり現れた見も知らぬ男性に抱きしめられた。
一瞬何が起きたか分からなかった。

「早く歌陽子さまから離れなさい!」

由香里さんの声が遠くから聞こえた。
そうしたら、急に男の人の力が抜け、私は立っていられなくなって、そのままずるずると座り込んでしまった。

彼、オリヴァーは、「ソーリー、ソーリー」と、「ギュッとハグするはフレンドリの心」とか言って、手を伸ばしてきた。
思い出したら、彼の厚かましさに腹が立ってきた。オリヴァーは確かにきれいな顔立ちだけど、こんな無遠慮な人は余り好きになれない。
そうしたら、今度は私の写真を見せびらかして、「東洋のルビーね」とか言うし、お父様に向かって、私をお嫁に欲しいとか言うし。
モーッ!一体何様?

彼は三葉ロボテクの、そう一中小企業の小さなロボットコンテストを手伝いにわざわざシンガポールから来たと言う。
そんな優秀な人が一体何の目的があって、得にもならないことをしようとするのかしら?
でも、と言うことは、2月半ばまで日本に止まるってこと?
ひょっとしたら、家に泊まるかも。
えーっ、と言うことは、これから毎日顔を見るの?

そうしたら、希美さんが、「あまり近づかない方がよろしくてよ」とアドバイスをくれた。有名なモデルさんとおつきあいして、しかも次々と相手を変えているプレイボーイだとか。
少しばかり頭がよくて、二枚目なのは認めるけど、どうしてそんな自分だけを見てくれない浮気な人を好きになれるの?
自分だけ特別に愛されると思うのかしら?
でも、安希子さんには「まともに恋愛なんかしたこともない小娘が生意気言うんじゃない」と怒られるかも知れない。

取り敢えず、頭を切り替えて、おじい様の仕事を手伝うことにしたんだけど、そうしたら、またオリヴァーに呼び出された。
私にお茶を持ってこいですって。
すっかり友だち気分なの?
だけど、安希子さんにウンザリして、今ここから離れられるなら、悪魔の誘いにだって乗ってかまわないと思った。
そして、安希子さんの所から逃げ出して、オリヴァーの所に向かったけれど、私、なんて浅はかだったのかしら。
これ以上関わりになってはいけなかったのに。

オリヴァーは、窓際でタブレットに向かって何かを打ち込んでいた。

「あ、ねえちゃん」

宙が先に気がついた。
でもオリヴァーにはあまり近づかないよう気をつけて、お団子とお茶だけを置いてさっと逃げ出そうとしたら、「プリティジャパニーズガール」とか言われて、もの凄く笑いかけてくるんだもの。

「もっと近くへ」と言われて、つい一歩近づいたら、また「もっと近くへ」。あと一歩だけのつもりが、いきなり手を引っ張っられて、気がつけば頰に口づけをされていた。

なんてことするの!

私、今日の今日まで、こんなこと男の人からされたことなかったのに!
頭がくらくらして、後ろに倒れそうになったところを、またオリヴァーに抱きとめられた。

あ、近くにオリヴァーの顔がある。
何?
オリヴァーの今の笑い方嫌い。
勝ち誇ったような、お前なんかもう俺の手の内だ、みたいな征服者のような笑い方。
あ、今度は正面から顔を寄せてきた。
お願い、やめてえ!

必死に目を閉じた私の身体が、急に後ろに引っ張られた。驚いて目を開くと、あっけに取られたオリヴァーの顔が少し遠くに見えた。

「歌陽子さんにおかしなことをするな!」
物凄く大きな声がした。
気がつけば、私はオリヴァーの手の中から、その人の腕の中に奪還されていた。

「この人は、僕の師匠の大切なお孫さんなんだ。指一本触るんじゃない!」

そうか、この人、おじい様のお弟子さんの農業塾の人だ。助けに来てくれたんだ。

「ソーリー。だけど、日本のサムライは気が短いね。お茶のお礼に軽くキスをしただけじゃないか。」

うそ、絶対、さっき唇を合わせるつもりだった。

「あなたには、その程度のことかも知れないが、この人はそう言う女性じゃないんだ。温室の花みたいに大事に育てられてきたんだ。乱暴に扱ったら折れちゃうだろ!」

いえ、本当はかなり雑に扱われていますけど。

「ボウイ、確かにそうかも知れないが、温室の中しか知らない花は、本当の香りを放つチャンスもなく枯れるだけだろ。君はカヨコの本当のミリョクに気がついていない。僕なら、それが出来る。」

いらないお世話よ。

「僕がそんなことは許さない。世間知らずでも、深窓の令嬢だっていいだろ。僕はこの人の静かで穏やかな、そんな人生を守ってみせる。」

え!この人もなんか重い。

少し沈黙のまま、睨み合う二人のところへ、また新たな声が飛び込んで来た。

「え、どうした。カヨちゃん、大丈夫?」

あ、祐一さん。
騒ぎを聞いて駆けつけてくれたんだ。

「あなた・・・、歌陽子さんの知り合いですか?」

オリヴァーを意識してか、少し硬い声のお弟子さんが聞いた。

「僕ですか?僕は、歌陽子さんのフィアンセです。」

ギョッとした感じのオリヴァーとお弟子さん。
祐一さん、それはかなり前の話でしょ。

「ただ、もと、ですけど。でも、彼女にその意思があればいつでも、フィアンセに戻るつもりです。」

祐一さん・・・。
なぜ今そんなややこしいこと言い出すんですか?

だけど、ひょっとして、私にとっては人生最大のモテ期?
ただ、この三人の突っ走り系男子にぜんぜん気持ちが追い付かない。
いったい何考えてるのかしら?

(#81に続く)