成長とは、考え方×情熱×能力#78
オリヴァー再び
「パーティジャックって、そんな・・・、だいたいこれは私の誕生会なんですし。」
「違います!」
「え?」
「だ〜んじて、違います!」
無茶苦茶だ、と歌陽子は思った。パーティが無茶苦茶になって頭に来たのは分かるけど、あくまで今日の主役は自分な訳だし、多少は主役を立てるくらいはしても良さそうなものである。
「お嬢様はとんでもない考え違いをしておいでです。」
(勘違いって何?何言ってんの?)
「だいたいお嬢様のような小娘のために、旦那様や奥様がどうして毎年大金を使わなければならないんですか?いいですか?お嬢様の誕生日に使っているお金があれば、メイドの2人は雇えるんですよ。2人ですよ。そうしたら、私の仕事がどれほど楽になることか。」
(そっちですか・・・。)
「それでも、毎年お嬢様の誕生日をきっちりとされるのは、他に大きな理由があってのことです。」
「り、理由って何ですか?」
「お嬢様の誕生日と言うのは、みな様が集まる口実に過ぎません。年の初めの顔合わせを兼ねて、日頃お世話になっているみな様へ感謝の気持ちを込めておもてなしをする日じゃありませんか。だから、旦那様も奥様も、毎年それこそ気を使われて、招待客はどうする、料理はどうだ、歌陽子をきちんとさせなさい、って・・・。
ああ、それにしても、なんでも歌陽子、歌陽子って、ああ憎たらしい。」
「ちょ、ちょっと、安希子さん・・・、こわい。」
歌陽子に対する感情をむき出しにして、飛びかかってきそうな安希子に、彼女は恐れをなして数歩後ずさった。
「そこまで、ご両親に気を使わせて、お嬢様は一体何をしているのですか?
せっかく良い留学先まで決めて貰いながら、直前でだだをこねて台無しにするわ。一緒に留学できなかった桜井様と松浦様のお嬢様方が残念がられて、とても気の毒でなりませんでしたわ。
それでも、旦那様は一緒懸命お嬢様のご希望を叶えようと奔走され、今の会社に課長待遇で就職できるよう取計らってくださいました。
そうしたら、何ですか。今度は不良老人たちを手下にして、ハリウッド帰りのクリエイターと逢引きするわ、シンガポールのイケメンをたらしこむわ。破廉恥にもほどがあります。」
歌陽子に言わせれば、それこそ物凄い脳内変換であったが、あえてそれは言わなかった。
少しばかり胃が痛くなっても、まずは安希子に不満を吐き出させてクールダウンさせなければ・・・。
「あげくに、このたびのこと、旦那様も奥様も、コックもメイドもみなお嬢様のためを思えば、何日も前から詰めて準備をしていましたのに、それを自らぶち壊しておしまいになって、あまつさえ、シンガポールのイケメン男にプロポーズまでされて。」
(・・・、それはもういいって。)
とにかく、今は吐き出したいだけ出させよう、そう歌陽子は思った。
ちなみに、当のシンガポールのイケメン男こと、オリヴァー・チャンはその頃何をしていたかと言えば、窓際に座りこんで持参したタブレットで自分の会社とチャットをしていた。部下に業務指示でもしているのか、パーティに出席している時すら片時も仕事から離れない、根っからのビジネスマンである。
その隣では、やはりパーティに馴染めない宙が、オリヴァーの横に腰掛けてつまらなそうに足をブラブラさせていた。
そこへ、農業塾の女子が声をかけた。
「あの、おむすびはいかがですか?」
「おむすびなんかいらないよ。」
宙はすげなく返した。
しかし、オリヴァーは、
「ソラ、こんなプリティなレディに冷たくしてはいけない。有り難うオジョウサン。」とニッコリ笑って竹皮の包みを受け取った。
その笑顔に彼女は、たちまち顔を赤らめて慌ててその場を去ろうとした。
「あ、待ってオジョウサン。あの、君に頼みがあるんだ。」
「え・・・、はい。」
(こんな素敵な男性にお願いをされるなんて。)
「日本のお茶をワンカップ欲しいんだ。」
「は、はい!」
急いでお茶を受け取りに走ろうとした女子を、しかしオリヴァーは呼び止めた。
「あ、そうじゃないんだ。カヨコに持ってきて貰いたいんだよ。」
「え・・・、歌陽子さんですか?は、はい、わかりました。」
少し残念そうな女子を尻目に、オリヴァーはまたタブレットに向かうのであった。
(#79に続く)